はじめに
前回は予算編成の要となる平成23年度の政府政策「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」について、説明しました。
その政策として、初等中等教育においては、高校の実質無償化を推進したり、質の高い教育を施すこと等を政策とすることが明記されていました。
今回は、政府の新成長戦略の下、平成23年度予算の文部科学省概算要求がどのように行われることとなっていったのかについて書いていきます。
平成23年度概算要求組替え基準と「元気な日本復活特別枠」
総予算の組替えの意義
平成22年7月27日に、「平成23年度予算の概算要求組替え基準について~総予算の組替えで元気な日本を復活させる~」が、閣議決定されました。
それによると、平成23年度も、平成22年度に引き続き、
配分割合が固定化している予算配分を省庁を超えて大胆に組み替えること
を行うと書かれています。
そして、それにより、
国民目線・国益に立脚した予算構造に改め、
そのためには、
ムダづかいの根絶の徹底や不要不急な事務事業の大胆な見直し
により、
新たな政策・効果の高い政策に重点配分する財源を確保することが重要である。
と述べています。
元気な日本復活特別枠
さらに、その予算を重点配分する手段として、
元気な日本復活特別枠
を設定することが説明されています。
この特別枠の内容について、引用して説明します。
ムダづかい根絶
各大臣が「ムダづかい根絶」のために行うこととして、以下の6つの事項を挙げています。
予算編成の透明性強化の推進
このような取り組みの他、平成22年度に行った、行政刷新会議による公開事業仕分けを引き続き行うこと等、政府の予算編成の過程で、予算編成過程全体の透明性強化を推進することが示されています。
『行政事業』レビュー
『行政事業レビュー』に向けての行動計画
平成22年4月5日文部科学省は、「『行政事業レビュー』に向けての行動計画」を発表しました。
4月上旬に国民、職員からの事業全般にかかる意見募集→5月中旬に公開レビュー(公開プロセス)対象事業のレビューシートの公表→国民からの意見募集→5月末頃には、公開レビュー(公開プロセス:公開の場での事業チェック)
など、事業仕分けを行う作業を国民に公開しながら,国民の意見も取り入れて行うための計画でした。
文部科学省「行政事業レビュー」の点検結果と平成23年度概算要求への反映状況について(平成22年8月30日)
「概算要求組替え基準」の内容に則り、文部科学省では、「行政事業レビュー」対象となった全事務事業(平成21年度:535事業)の検証を行い、当該レビューの点検結果を平成23年度概算要求に反映しました。
その結果、平成22年度と比較して1,226億円減となりました。
その中から、教職員の業務削減に関係のある事業について、以下にいくつか取り出して書きます。
平成23年度文部科学省概算要求(一般会計)における予算の組替えについて
文部科学省では、総予算組替え対象経費を生み出すために、「行政事業レビュー」点検結果を反映させるなどして、概算要求としては、平成22年度当初予算額より6,280億円の減額としました。
そして、「元気な日本復活特別枠」として、「安全で質の高い学校施設の整備」や「小学校1・2年生における35人学級の実現」などのために、8,628億円を要望しました。
平成23年度概算要求における政策評価調書(平成22年9月2日)政策目標3-1義務教育に必要な教員の確保
「政策評価調書」とは、
政策評価結果等を予算編成において適切に活用するため、各政策の評価結果の概要や評価結果の概算要求への反映状況等を記載したもの
です。
3党連立政権による政府では、予算編成・執行プロセスの抜本的な透明化・可視化を図るため、平成22年度概算要求におけるものからホームページで公開することになりました。
その中で、「義務教育に必要な教職員の確保」の「政策に関する評価結果の概要」として、
公立義務教育諸学校における学級規模と教職員の配置の適正化及び教員が子どもに向き合う時間の確保に成果をあげている。
とあります。
さらに、
新学習指導要領の円滑な実施や教員が子どもと向き合う時間の確保することによる質の高い教育を実現するため、35・30人学級の実現を柱とする新たな教職員定数改善計画(案)〔平成23年度~30年度までの8ヵ年計画〕を策定し、平成23年度概算要求にその初年度分として、小学校1・2年生で35人学級を実現するため、8,300人の教職員定数の改善を盛り込む。
としました。
平成23年度文部科学省概算要求(平成22年9月1日)
平成23年度文部科学省概算要求・要望のポイント
「平成23年文部科学省概算要求・要望のポイント」の文書の中に、「概算要求・要望に関する基本方針」という項目があります。そこには、
「元気な日本復活特別枠」を活用し、我が国の成長の原動力である「強い人材」を実現し、国民の依頼に対する希望につながる施策を要求・要望
と記されています。
そして、続く「文教関係予算のポイント」の中に、
「強い人材」実現のためには、国民全体に質の高い教育を受ける機会を保障し、様々な分野において厚みのある人材層の形成が必要
そのため、
など、
各教育段階において、すべての子どもが希望する教育を受け、人生の基盤となる力を培うとともに、将来の日本、政界を支える人材を育成するための施策に重点化
としています。
ちなみに、少人数学級の推進については、民主党のマニフェスト内でも、掲げられていました。
平成23年度概算要求(平成22年9月1日)
教職員定数の改善と少人数学級の推進
平成22年9月1日、文部科学省は平成23年度概算要求を提出しました。
「教職員定数の改善」の「少人数学級の推進」としては、
30 年ぶりに40人学級を見直し、10年振りの新たな教職員定数改善計画(平成23年度から30年度までの8ヵ年計画)を策定し、少人数学級(35・30人学級)の推進等を行う
ことを要求しました。
また、「教職員配置の改善」として、
平成26年度から30年度までの5ヵ年計画で、理科の専科教育や生徒指導(進路指導)担当教員等の教職員の配置を改善する
ことも要求しました。
平成23年度については、
- 小学校1・2年生の35人学級の実現‥7,800人
- 35人学級の実施に伴う教職員配置の充実‥500人
- 副校長・教頭の配置の充実(220人)
- 生徒指導(進路指導)担当教員の配置の充実(60人)
- 事務職員の配置の充実(220人)
の合計8,300人を要求しました。
保護者や地域による学校支援
保護者や地域による学校支援のための事業がいくつか廃止された代わりに、新しい事業のための予算を要求しました。
「行政事業レビュー」で「委託事業を廃止」とされた、「学校支援地域本部事業」や「平成21年度限りの経費」として廃止された「保護者を中心とした学校・家庭・地域連携強化及び活性化推進事業」は、新設された「学校・家庭・地域の連携による教育支援活動促進事業」の中に組み込まれました。
さらに、「『新しい公共』型学校創造事業」として、学校と地域の新しい共助の在り方の検討を行い、コミュニティ再生の拠点ともなり得る『新しい公共』型学校(地域コミュニティ学校)のモデルの構築等を行う事業も要求されました。
そして、「平成21年度限りの経費(平成22年度に他事業に転換)」とされていた「コミュニティ・スクール」(学校運営協議会制度)は、「学校運営支援等の推進事業」に組み込まれました。
同じく、「行政事業レビュー」で「21年度限りの経費のため廃止」となった、「総合型地域スポーツクラブを核とした活力ある地域づくり推進事業」と「総合型地域スポーツクラブ特別支援事業」は、「元気な日本スポーツ立国プロジェクト」の「スポーツコミュニティの形成促進」へと、変化しました。
学びのイノベーション事業
- 「平成21年度限りの経費のため廃止」とされた、「学校教育情報化推進総合プラン」については、「学びのイノベーション事業」として、新しい事業に引き継がれました。
まとめ
平成23年度概算要求は、
という大変手間のかかる手順を踏んで、しかも、それらの資料を公表した上で行いました。
そして、それにより、廃止したり縮減されたりした事業が数多くありました。
不必要な事業が削減され、復活しなかったものもありますが、事業を削減したけれど、同じような事業が名前を変えてまた復活しているものも多くあります。
何はともあれ、少人数学級の推進や、学級数増に伴い、必要となる、事務職員や副校長等の増員も要求する内容になったのは、評価できます。
また、教職員の業務削減につながる、「学校・家庭・地域の連携による教育支援活動促進事業」、「元気な日本スポーツ立国プロジェクト」の「スポーツコミュニティの形成促進」、「学びのイノベーション事業」等の事業が要求されたことは、前年度までの文部科学省の方針や政策が引き継がれたということであり、元教員で、「学校の働き方改革」を望んでいる筆者にとって喜ばしいことです。
次回「学校における働き方改革は可能か⑮~「『元気な日本復活特別枠』要望に対するパブリックコメント(政策コンテスト)」を経て平成23年度予算にて少人数学級成立~」では、まだ続く長い道のりを経て、やっと予算が成立し、少人数学級が実現されていく様子を書いていきます。
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