はじめに
この記事では、学校における働き方改革に関する最近(令和元年12月から令和4年9月現在)の主なできごとについて書きます。
以前、「学校における働き方改革は可能か㉞~第3期教育振興基本計画、経済財政運営と改革の基本方針2018(骨太2018)」の記事の中で、平成30年6月15日、平成30年度から平成34年度までの5年間の教育振興に関する施策の総合的・計画的な推進を図るために政府が策定する「第3期教育振興基本計画」が閣議決定されたことを書きました。
この中で、「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導体制の整備等→小中学校の教諭の1週間あたりの学内総勤務時間の短縮」、「ICT利活用のための基盤の整備→学習者用コンピュータを3クラスに1クラス分程度整備」という目標と測定指標・参考指標(例)が掲げられていました。
しかし、この第3期教育振興基本計画の計画を実行中、平成31年度(令和元年度)の終わりの令和2年2月に、新型コロナウイルス感染症対策としての臨時休校などが起こり、第3期教育振興基本計画の順調な遂行がままならない状況に陥ってしまいました。
そんなコロナ禍の中、学校における働き方改革にとって有益だったできごとと、反対に悪影響になってしまったできごとがありました。
今回の記事では、令和2年2月に新型コロナウイルス感染症の対策が始まる少し前、令和元年(平成31年)12月11日「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律」(改正給特法)が公布されてから、令和4年9月現在までの間の、学校における働き方改革に関する主なできごとについて書いていきます。
学校における働き方改革に関する最近(令和元年12月~令和4年9月)の主なできごとランキング
学校における働き方改革に関する最近(令和元年12月~令和4年9月)の主なできごとを、学校における働き方改革にとって有益だと思う順にランク付けしてみました。
長年教育現場で働いた元教員の私が、独自に教育政策を調べたり、SNSでの皆さんの意見や数々の記事を見たりしてきた結果に基づき、あくまでも、私の独断と偏見で決定したものですのでご了承ください。
ランキング形式で紹介します。
第1位 小学校2年生以上の学年で順次35人学級へ移行開始
新型コロナウイルス感染症による感染防止対策として、少人数学級が重要視されたことが追い風となり、令和3年度以降、小学校2年生以上の小学校全学年で順次35人学級へ移行するための予算が措置されることになりました。
学級編成の標準を計画的に一律に引き下げるのは昭和55年以来、約40年ぶりのことであり、少人数学級の実現は教育現場からの長きにわたる強い要望であったため、ランキング第1位としました。
1学級当たりの児童数が減ることによって、小学校担任の負担が減ることになるため、学校における働き方改革にとって、大変喜ばしいできごとでした。
多くの教職員は、今後中学校や高等学校等でも少人数学級化が進むことや、小学校で30人学級化が実現することを望んでいます。
第2位 令和5年度から休日の学校部活動が段階的に地域移行することが決定
令和2年9月2日に「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」が文部科学省から発表されました。
令和5年度以降、休日の部活動の段階的な地域移行を実施することを計画するものでした。
自治体ごとに進めていく必要があり、学校や教育委員会だけの問題ではなく地域の人や地元企業、スポーツ団体、自治体の他部署などとの連携が必須のため、自治体によっては、なかなか進んでいないのが現状のようです。
しかし、特に中学校や高等学校などでは、教員の超過勤務の主要な原因になっていて、早急な対策が望まれるため、第2位にランク付けしました。
第3位 教員免許更新制の発展的解消
令和4年7月1日をもって、教員免許更新制が廃止(発展的解消)されました。
このことにより、教員免許更新講習を受けなかったために教員免許が失効してしまった人も手続きするだけで教員免許が復活したり、教員免許を持っていても教員の経験がない人は、何の手続きもなく、教員免許が有効化されたりすることになりました。※詳しくは、「教員免許更新制廃止で失効した教員免許が復活します!」と、「教員免許更新制廃止で失効した教員免許が復活します!②~手続きなしで教員免許が復活する人~」をご覧ください。
教員免許更新制が廃止(発展的解消)された大きな理由は、教員不足でした。
教員免許更新制の廃止(発展的解消)により、免許をもっていても免許状の更新をしなかったために免許状が失効してしまった人が教員となることで、育休や産休、病気療養中の教員の代替講師が見付からない問題や、必要な教員数が確保できない問題が解決することへの期待を込めてランキング第3位としました。
ただし、教員免許更新制は廃止されましたが、新たな研修制度が開始されることとなりましたので、その点が教育職員の負担になり、マイナス評価です。
第4位 西本武史さん裁判勝訴
大阪市の府立高校教諭の西本武史さんが、恒常的に長時間労働を強いられ、適応障害を発症したとして学校側に賠償を求める訴えを起こしました。
6月28日の判決で大阪地方裁判所は、学校側が抜本的な業務負担の軽減策を講じなかったとして学校側に230万円余りの賠償を命じました。
給特法(※)という特殊な法律が適用される教員の労働時間であっても、校長には安全配慮義務、つまり教員の労働時間や仕事量を調節・管理する責任があることがはっきりしたこの裁判の結果は、教員にとっては朗報であり、意義深いものでした。
※給特法とは、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」の略
- 原則として時間外勤務を命ずることはできない。
- 正規の勤務時間の内外を問わず、『包括的に評価』した結果として給料月額の4%の教職調整額が支給される。
- 時間外勤務手当て及び休日勤務手当は支給されない。
第5位 GIGAスクール構想が加速
令和2年2月から始まった新型コロナウイルスの感染防止対策としての臨時休校により、リモート授業の必要性が高まったことから、平成30年度から平成34年度までの5年間で学習者用コンピュータを3クラスに1クラス分程度整備とされていた、第3期教育振興計画を上回るペースでGIGAスクール構想が進み、令和4年3月1日時点で文部科学省が行った調査によると、ほとんどすべての学校で1人1台のPCの配付が完了しました。(下記資料参照)
しかし、同時に、児童生徒のPCの管理・設定などの新たな業務が学校で行われることになりました。(下記資料参照)
文部科学省は令和3年8月23日、学校教育法施行規則の一部を改正する省令を公布、施行し、それまでのICT支援員を「情報通信技術支援員」として職務と名称を規定しましたが、自治体によっては十分な人数が配置されているとは言えない現状になっているようです。
第6位 定年延長が決定
「公立学校教員・公務員の定年延長により2年に1度、教員採用試験と公務員試験の受験倍率が上がる!?(令和3年6月25日修正版)」に書いたとおり、公立学校の教員の定年が、令和5年度から段階的に65歳まで延長されることになりました。
そして、それに伴い、現在の再任用制度は暫定再任用制度に移行することになるなどの制度変更が行われます。※定年延長に伴う各制度の変更については、「地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか①~定年前再任用短時間勤務制~」から始まるシリーズで詳しく説明していますのでぜひお読みください。
学校における働き方改革にとって、定年延長はよいことでしょうか?悪いことでしょうか?
私はよいことだと考えます。
まず、単純に定年延長により教員数が増えます。
そして、それだけではなく、高齢の教員が増えるということは、学校を高齢の教員にとっても働きやすいような環境に変えていくチャンスになると考えます。
教員の高齢化が進んでもなお、教員の仕事が激務のままであれば、本来すべき業務をこなすことができない60歳を過ぎた教員が増えて、若手の教員の負担がますます大きくなるという事態が起こってしまうでしょう。
また、令和5年度から定年が延長されても、現在のような過酷な労働環境では、ベテランの教員が早期退職してしまったり、再任用を拒んでしまったりするでしょう。
これでは、教師になりたい若者が減ることと並行して、高齢の教員も増えず、国の予想に反して今後も教師不足が解消されません。
令和5年度以降、定年が延長されても、教師不足が続く状況に陥ることになれば、国は、学校における働き方改革を早急に進め、教員の労働環境を早急に改善する必要があると気付くことでしょう。
第7位 #教師のバトンの結果
前回の記事「学校における働き方改革は可能か㉟~学校における働き方改革が進まない原因と#教師のバトンと文科省VS自治体・教委・校長~」では、令和3年3月26日に始まった文部科学省の「#教師のバトン」プロジェクトのことと、学校における働き方改革が進まない原因について説明しました。
「#教師のバトン」プロジェクトは、発足直後から、教師の魅力を伝える目的から大きくはずれてしまいました。
今までどこにも不満のはけ口のなかった現役教師たちが、ここぞとばかりに教師という仕事のブラックな面を次々と暴露するだけの場になってしまったのです。
そして、現在、令和4年に実施されている令和5年度の各自治体の公立学校の教員採用試験の1次試験の倍率は、令和4年度の教員採用試験よりもさらに下がっている、つまり、教員志願者がさらに減るという状態に陥ってしまっています。
しかし、「#教師のバトン」プロジェクトのよかった点は、世間一般に教員の働き方のブラックさが広く知れ渡り、政府や教育委員会が学校における働き方改革を推進せずにはいられなくなったことでしょう。
第8位 改正給特法制定により1年単位の変形労働時間制が可能に
令和元年12月11日「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律」(改正給特法)が公布されました。
これにより、平成30年1月に文部科学省が策定した「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」が法的根拠のある「指針」に格上げされることとなりました。
したがって、令和2年1月17日には、「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」が文部科学省より告示され、令和2年4月1日に施行されました。
これにより、教員職員の在校等時間を勤務時間管理の対象とし、1か月の時間外在校等時間の上限を45時間以内、1年間の時間外在校等時間の上限を180時間以内とするなどの指針を示しました。
そのため、タイムカードなどにより在校等時間の管理をする学校が増えていますが、在校等時間が減っても持ち帰り時間が増えている、在校等時間のデータをかいざんするなどの問題も起こっているようです。
また、私が知る限り、自治体の全部の学校や自治体の全部の教育職員が在校等時間の上限を守れる教育委員会が現れるまでには、残念ながら至っていません。
下記の資料は令和2年度の小学校と中学校の教職員の時間外勤務の調査結果で、4月から6月はコロナ禍の学校休業の影響があり、それまでの調査年に比べて在校等時間がかなり減っていますが、逆に7月と8月は増えています。
令和4年度現在、文部科学省が全国的な在校等時間の調査を実施中です。
そして、令和元年12月11日に「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律」(改正給特法)が公布されたことにより、令和3年4月1日の施行日からは、休日の「まとめ取り」のための一年単位の変形労働時間制を、各地方公共団体の判断により条例で選択的に活用できるようになりました。
この【休日の「まとめ取り」のための1年単位の変形労働時間制】の詳しい内容や、この内容が教員にとって喜ばしくないものであることについては、いずれ他の記事で詳しく説明したいと思っています。
第9位 田中まさおさん裁判最高裁へ
「自治体により教育政策はどれぐらい違うのか?/政令指定都市編④~仙台市・千葉市・北九州市~と田中まさおさん裁判」で書いたように、埼玉県内の市立小学校教員の田中まさおさん(仮名)の裁判がさいたま地裁で一審敗訴判決を受けたため、田中まさおさんは上告しました。
そして、2022年3月から東京高裁で審理が開始され、2022年8月25日に控訴棄却となりました。
教員の時間外労働に残業代が支払われていないのは労働基準法に違法しているとして、県に約242万円の未払い賃金の支払いを求めていた裁判でした。
田中まさおさんは、最高裁に上告する方針です。
詳しい内容が分かる田中まさおさんのサイトはこちらです。
第10位 新型コロナウイルス感染症対策の業務が増える
令和2年2月末から感染が拡大した新型コロナウイルス感染症に対する対策として、教室などの消毒や児童生徒の健康観察、教育内容を工夫して精選すること、給食の配膳を教師が行うこと、タブレット端末を使用したリモート授業などの新たな業務が教員の行う業務に加わりました。
これら、新型コロナウイルス感染症対策のために増えた教員の業務の一部を担うため、これまでの「スクールサポートスタッフ」が、令和3年8月に「教員業務支援員」として学校教育法施行規則で職務と名称を明確に規定され、増員も行われてきました。
この教員業務支援員が消毒などの業務を担う学校もあるようですが、自治体によっては、十分な人数が配置されているとは言えない状況のようです。
まとめ
この記事では、教員の働き方改革に関する最近の主なできごとについて書きました。
第3期教育振興基本計画の中で策定されていた教育に関する内容のうち、コロナウイルスの感染防止対策のおかげで目標を上回る結果を出すことができたものは、「平成34年度(令和4年度)までに学習者用コンピュータを3クラスに1クラス分程度整備」とされていたのに、令和4年3月1日現在、ほぼ全部の学校で1人1台の学習用コンピュータを配付することが完了したことです。
反対に、目標を下回る結果となりそうなのが、小中学校の教諭の1週間あたりの学内総勤務時間の短縮です。
そして、ここ数年で学校における働き方改革に関する施策が少しずつ進むと同時に、「#教師のバトン」をはじめ、教員の働き方のブラックさが世間に知られることとなったできごとも多くあり、マスメディアでも教員の働き方に関する問題がしばしば取り上げられるようになったことは、大きな進歩だと思います。
しかし、依然として学校現場の多くは、過重労働や人手不足など、さまざまな問題が続いている状態であるため、世論の力も借りて、一刻も早く学校における働き方改革に関する施策及び予算が大幅に増えることに期待したいと思います。
次回は、従来のこのシリーズの内容の続きとして、平成31年度文部科学省概算要求について調べ、学校における働き方改革の施策として何が行われてきたか、お知らせします。
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