はじめに
結論から先に書くと、地方公務員で「実際に『定年による退職の特例』が適用され、定年延長される職員(場面)はかなり限られるのではないか。」となります。
私が「地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか⑤~定年による退職の特例が実際適用される場面は?~」の記事を書く理由
どうして私が公務員の退職や定年延長、再任用などに関する記事を書いているかというと、自分自身の経験からです。
私は55歳で公立学校教員を早期退職しました。
公務員の退職、定年延長、再任用の制度などについては、所属する組合の冊子や機関紙である程度情報を得ていました。
しかし、55歳になるまで、管理職や教育委員会から、それらのことに関する情報を提供されたことはありませんでした。
そして、いよいよ55歳になり、退職勧奨の年齢になって初めて、校長から早期退職の制度についての書類を渡されました。
私の自治体では、定年退職する場合は、退職に向けての多くの説明会があったり、退職後の再任用制度についての冊子なども渡されたりします。
それに対して、早期退職者にはそういう機会・制度は僅かしかありませんでした。(ひょっとすると、自校の校長が私に伝えなかっただけ、という可能性もあります。)
私の場合は共済組合による説明会が一回あっただけでした。
ですから、恐らく現在お勤め中の全国の教員をはじめ多くの公務員の方も、私と同じように退職制度や再任用制度について、詳しい情報を得られていないのではないかと思います。
そのような方のために、少しでも力になれたらと、このような記事を書いています。
これまでの「地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか」シリーズの記事で分かったこと
これまでの記事のうち、
「地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか②~校長・副校長・教頭は、60歳以降、役職定年により、降格?」で、【役職定年制(管理監督職勤務上限年齢制)】について調べました。
そして、管理監督職勤務上限年齢を超えても、条件が合えば、管理監督職として、最大で3年ないし5年勤務し続けることができることが分かりました。
続く「地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか③~定年による退職の特例とは?~」では、【定年による退職の特例】について調べました。
その結果、令和3年6月5日の地方公務員法改正で、「定年による退職の特例」の条件に「職員の職務の特殊性を勘案して、当該職員の退職により、当該職員が占める職の欠員の補充が困難となることにより、公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として条例で定められる事由」が加わったことが分かりました。
また、定年年齢を迎えても、条件が合えば最大で3年まで定年を延長できることもお知らせしました。
「地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか⑤~定年による退職の特例が実際適用される場面は?~」の記事で明らかにすること
この記事で明らかにすることは、
「定年による退職の特例が実際に適用される場面は?」
ということです。
そのために、まず、地方公務員法の「管理監督職上限年齢制(役職定年制)」について説明します。
次に、地方公務員法の「定年による退職の特例」と「管理監督職上限年齢による降任等及び管理監督職への任用の制限の特例」(令和3年6月4日/地方公務員法一部改正後)を比較します。
その後、地方公務員法の「定年による退職の特例」に当てはまる条件を、国家公務員の例から探ります。
そのために人事院からの通知を引用します。
管理監督職勤務上限年齢制(役職定年制)(令和3年6月4日/地方公務員法一部改正後)
管理監督職勤務上限年齢による降任等
「管理監督職勤務上限年齢による降任等」地方公務員法第二十八条の二/令和3年6月4日一部改正後
- 任命権者は、管理監督職(地方自治法第二百四条第二項に規定する管理監督手当を支給される職員の職及びこれに準ずる職であって条例で定める職をいう。以下この節において同じ。)を占める職員でその占める管理監督職に係る管理監督職勤務上限年齢に達している職員について、異動期間(当該管理監督職勤務上限年齢に達した日の翌日から同日以降における最初の四月一日までの間をいう。以下この節において同じ。)(第二十八条の五第一項から第四項までの規定(管理監督職勤務上限年齢による降任等及び管理監督職への任用の制限の特例)により延長された期間を含む。以下この項において同じ。)に、管理監督職以外の職又は管理監督職勤務上限年齢が当該職員の年齢を超える管理監督職(以下この項及び第四項においてこれらの職を「他の職」という。)への降任又は転任(降級を伴う転任に限る。)をするものとする。ただし、異動期間に、この法律の他の規定により当該職員について他の職への昇任、降任若しくは転任をした場合又は第二十八条の七第一項の規定(定年による退職の特例)により当該職員を管理監督職を占めたまま引き続き勤務させることとした場合は、この限りでない。
- 前項の管理監督職勤務上限年齢は、条例で定めるものとする。
- 管理監督職及び管理監督職勤務上限年齢を定めるに当たっては、国及び他の地方公共団体の職員との間に権衝を失しないように適当な考慮が行わなければならない。
- 第一項本文の規定による他の職への降任又は転任(以下この節及び第四十九条第一項ただし書において「他の職への降任等」という。)を行うに当たって任命権者が遵守すべき基準に関する事項その他の他の職への降任等に関し必要な事項は、条例で定める。
「管理監督職上限年齢による降任等」まとめ~
管理監督職への任用の制限
「管理監督職への任用の制限」地方公務員法第二十八条の三/令和3年6月4日一部改正後
- 任命権者は、採用し、昇任し、降任し、又は転任しようとする管理監督職に係る管理監督職勤務上限年齢に達している者を、その者が当該管理監督職を占めているものとした場合における異動期間の末日の翌日(他の職への降任等をされた職員にあっては、当該他の職への降任等をされた日)以降、当該管理監督職に採用し、昇進し、降任し、又は転任することができない。
「管理監督職への任用の制限」地方公務員法第二十八条の四/令和3年6月4日一部改正後
- 前二条の規定は、臨時的に採用される職員その他の法律により任期を定めて任用される職員には適用しない。
「管理監督職への任用の制限」まとめ
「定年による退職の特例」と「管理監督職上限年齢による降任等及び管理監督職への任用の制限の特例」(令和3年6月4日/地方公務員法一部改正後)の比較
「定年による退職の特例」地方公務員法第二十八条の七/令和3年6月4日一部改正後
- 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、次に掲げる事由があると認めるときは、同項の規定にかかわらず、条例で定めるところにより、当該職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、当該職員を当該定年退職日において従事している職務に従事させるため引き続き勤務させることができる。ただし、第二十八条の五第一項から第四項までの規定(管理監督職勤務上限年齢による降任等及び管理監督職への任用の制限の特例)(※)により異動期間(これらの規定により延長された期間も含む。)を延長した職員であって、定年退職日において管理監督職を占めている職員については、同条第一項又は第二項の規定により(※)当該定年退職日まで当該異動期間を延長した場合に限るものとし、当該期間は、当該職員が占めている管理監督職に係る異動期間の末日の翌日から起算して三年を超えることができない。 ※次項参照
①前条第一項の規定(定年による退職)により退職すべきこととなる職員の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該職員の退職により、公務の運営に著しい支障が生じると認められる事由として条例で定める事由
②前条第一項の規定(定年による退職)により退職すべきこととなる職員の職務の特殊性を勘案して、当該職員の退職により、当該職員が占める職の欠員の補充が困難となることにより、公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として条例で定められる事由
- 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項各号に掲げる事由が引き続きあると認めるときは、条例で定めるところにより、これらの期限の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、当該期限は、当該職員に係る定年退職日(同項ただし書に規定する職員にあっては、当該職員が占めている管理監督職に係る異動期間の末日)の翌日から起算して三年を超えることができない。
- 前二項に定めるもののほか、これらの規定による勤務に関し必要な事項は、条例で定める。
「管理監督職勤務上限年齢による降任等及び管理監督職への任用の制限の特例」地方公務員法第二十八条の五/令和3年6月4日一部改正後
- 任命権者は、他の職への降任等をすべき管理監督職を占める職員について、次に掲げる事由があると認めるときは、条例で定めるところにより、当該職員が占める管理監督職に係る異動期間の末日の翌日から起算して一年を超えない期間内(当該期間内に次条第一項に規定する定年退職日(以下この項及び事項において「定年退職日」という。)がある職員にあっては、当該異動期間の末日の翌日から定年退職日までの期間内。第三項において同じ。)で当該異動期間を延長し、引き続き当該管理監督職を占める職員に、当該管理監督職を占めたまま勤務させることができる。
①当該職員の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該職員の他の職への降任等により、公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として条例で定める事由。
②当該職員の職務の特殊性を勘案して、当該職員の他の職への降任等により、当該管理監督職の欠員の補充が困難となることにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として条例で定める事由。
- 任命権者は、前項又はこの項の規定により異動期間(これらの規定により延長された期間を含む。)が延長された管理監督職を占める職員について、前項各号に掲げる事由が引き続きあると認めるときは、条例で定めるところにより、延長された当該異動期間の末日の翌日から起算して一年を超えない範囲内(当該期間内に定年退職日がある職員にあっては、延長された当該異動期間の末日の翌日から定年退職日までの期間内。第四項において同じ。)で延長された当該異動期間を更に延長することができる。ただし、更に延長される当該異動期間の末日は、当該職員が占める管理監督職に係る異動期間の末日の翌日から起算して三年を超えることができない。
- 任命権者は、前項の規定により異動期間を延長することができる場合を除き、他の職への降任等をすべき特定管理監督職群(職務の内容が相互に類似する複数の管理監督職であって、これらの欠員を容易に補充することができない年齢構成その他の特別の事情がある管理監督職として人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める管理監督職をいう。以下この項において同じ。)に属する管理監督職を占める職員について、当該職員の他の職への降任等により、当該特定管理監督職群に属する管理監督職の欠員の補充が困難になることにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として条例で定める事由があると認めるときは、条例で定めるところにより、当該職員が占める管理監督職に係る異動期間の末日の翌日から起算して一年を超えない期間内で当該異動期間を延長し、引き続き当該管理監督職を占めている職員に当該管理監督職を占めたまま勤務をさせ、又は当該職員を当該管理監督職が属する特定管理監督職群の他の管理監督職に降任し、若しくは転任することができる。
- 任命権者は、第一項若しくは第二項の規定により異動期間(これらの規定により延長された期間を含む。)が延長された管理監督職を占める職員について前項に規定する事由があると認めるとき(第二項の規定により延長された当該異動期間を更に延長することができるときを除く。)、又は前項若しくはこの項の規定により異動期間(前三項又はこの項の規定により延長された期間を含む。)が延長された管理監督職を占める職員について前項に規定する事由が引き続きあると認めるときは、条例で定めるところにより、延長された当該異動期間の末日の翌日から起算して一年を超えない期間内で延長された当該異動期間を更に延長することができる。
- 前各項に定めるもののほか、これらの規定による異動期間(これらの規定により延長された期間を含む。)の延長及び当該延長に係る職員の降任又は転任に関し必要な事項は、条例で定める。
「定年による退職の特例」と「管理監督職勤務上限年齢による降任等及び管理監督職への任用の制限の特例」(令和3年6月4日一部改正後)の比較まとめ
地方公務員法「定年による退職の特例」に当てはまる条件を国家公務員の例から探る
人事院規則一一ー八(職員の定年)の全部を改正する人事院(※)規則(令和4年2月18日)
(※)人事院とは…日本の行政機関のひとつ。国家公務員の人事管理の公正中立と統一を確保し、労働基本権制約の代償機能を果たすため、人事院規則の制定・改廃、不利益処分審査の判定、給与に関する勧告等を行う行政委員会である。国家公務員法第2章に基づいて設置された「中央人事行政機関」であり、人事行政の公平性を保つため、人事院自体は内閣に属するものの、その権限は内閣から独立して公使することができる。
勤務延長ができる事由(第四条)
「定年制度の運用について(通知)」(令和4年2月18日/人事院事務総長/給生-15)より「第2」
勤務延長関係
- 規則第4条第2項で定める事由(※前述)には、例えば、次に掲げるような場合が該当する。
『地方公務員法「定年による退職の特例」に当てはまる条件を国家公務員の例から探る』まとめ
国家公務員において、「定年延長(定年による退職の特例)」に当てはまる職員は、「大規模な研究プロジェクトにおいて有用な役割を果たしている」、「習得に相当の期間を要する熟練した技能等を要する職務に従事している」、「離島その他のへき地にある官署等に勤務している」など、かなりレアなケースのようです。
地方公務員においても、このような職員はかなり特殊で、実際に定年延長(定年による退職の特例)が適用されることは、ほとんどないのではないでしょうか。
まとめ
地方公務員法改正案施行で「定年による退職の特例」の適用条件は増えたけれど、国家公務員の例を参考にすると、地方公務員で「実際に『定年による退職の特例』が適用され、定年延長される職員はかなり限られるのではないか。」という結論に至りました。
しかし、「管理監督職勤務上限年齢制(役職定年制)」が適用される場合、「職務の遂行上の特別の事情」と「職員の職務の特殊性によりそのポストの欠員の補充が困難」の事由により定年まで当該異動期間を延長した場合は、定年に達した後も引き続き管理監督職として勤務を続けることができることも分かりました。
国は「豊富な知識、技術、経験等を持つ高齢期の職員に最大限活躍してもらうため」国家公務員と地方公務員の定年の65歳への引上げを決めました。
「年金支給開始年齢の後ろ倒しとの整合性をもたせるために、職員の定年延長制を継続するのはやむを得ない。」と考えてのことでしょう。
しかし、「豊富な知識、技術、経験等を持つ高齢期の職員に最大限活躍してもらうため」といいながら、60歳を超えた職員が管理監督職から降格する「役職定年制の導入」も同時に決まりました。
このことから、内心は「豊富な知識、技術、経験等を持つ高齢期の職員に最大限活躍してもらうため」よりも、「組織の新陳代謝を促進させる。」ことや「給与コストを削減する。」ことを重視する政府の魂胆が想像できます。
すると、「組織の新陳代謝を促進させる。」、「給与コストを削減する。」ため、「定年による退職の特例はできれば避けたい。」という政府の考えも透けて見えます。
だからこそ、「定年による退職の特例」が適用できる条件を、ごく限られた特殊なものに限っているのでしょう。
次回は「地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか⑥~特例定年はどう変わるのか~」というテーマで記事を書きます。
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