はじめに
先日(令和2年9月16日)、およそ8年間の長きにわたって続いた第2次安倍晋三政権が終わり、新しく菅義偉が第99代内閣総理大臣に指名され、新内閣が発足しました。
今回は、平成24年12月に、この第2次安倍政権が発足して以降の平成25年度予算編成について書いていきます。
結論を言うと、平成25年度予算は、新政権の意向を重視したものに変化しました。
少人数学級については、5ヵ年計画が予算措置されなかっただけでなく、平成25年度単年での措置もされませんでした。
第2次安倍内閣誕生
平成24年12月の衆議院総選挙で自民党が圧勝して、12月26日、自民党と公明党による連立政権が発足しました。
この第2次安倍政権発足により、平成21年9月9日から約3年続いた民主党・社会民主党・国民新党の三党連立政権が終了しました。
第2次安倍政権は、当初、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の三本の矢で、日本経済を取り戻すことを打ち出しました。
平成25年度概算要求見直しの概要
平成24年9月に提出した平成25年度の概算要求は、この平成24年12月の第2次安倍政権への政権交代を受けて、見直しを迫られました。
見直し後、平成25年1月に再度提出した概算要求は、9月の概算要求と比較して、文部科学省全体で、1,209億円の減となりました。
その結果、義務教育費国庫負担金は減らし、「全国学力・学習状況調査」と「子どもの体力向上に向けた調査研究」を悉皆方式に見直す内容が組み込まれました。
そして、「公立高校の授業料無償制度及び高等学校等就学支援金」は、朝鮮学校にかかる経費を削減することとしました。
また、「新たな教育改革に向けた調査研究等」の費目を新設し、高校生の学習到達把握に関する検討委員会や小中一貫教育校による多彩な教育システムの調査研究等を実施することとしました。
平成25年度予算
予算のポイント
財務省による査定、国会審議を経て平成25年度予算が成立しました。
「国会の議決・決算検査報告書等の反映」や「予算執行調査の反映」等、「徹底した予算の効率化」を予算編成のポイントとしていました。
25年度予算は、
日本経済再生に向けて、緊急経済対策に基づく24年度補正予算と一体的なものとして、「15ヶ月予算」として編成する一方で、
財政健全化目標を見据え、前年度よりひきしまった中身とする中で、
補正予算同様に「復興・防災対策」「成長による富の創出」「暮らしの安心・地域活性化」に重点化
としました。
平成24年12月の政権交代を受け、平成24年9月当時の概算要求の重点とは、全く異なった重点になりました。
「主要経費別内訳」で見ると、「社会保障関係費」「防衛関係費」「公共事業関係費」「エネルギー対策費」が増え、「文教及び科学振興費」「恩給関係費」「地方交付税交付金等」「食料安定供給関係費」などが減っています。
公立学校教職員に関連する事項としては、歳出の適正化のために、地方公務員の給与が削減された施策がなされたことです。
その上、
とあり、地方公務員にとって厳しい予算編成の結果となりました。
平成25年度文部科学関係予算のポイント
平成25年度の文部科学省の予算は、対前年度比△1.1%で成立しました。
「文教関係予算のポイント」の中に、
世界トップレベルの学力、規範意識、歴史や文化を尊重する態度を育むため「教育再生」を実行する
しっかりとした学力評価により子ども達の課題を把握するとともに、教育再生実行の基盤となる教職員等指導体制の整備や道徳教育の充実などにより、学力と人間性を備えた人材を育成
とあります。
1月に行われた概算要求の見直しで、「『全国学力・学習状況調査』と『子どもの体力向上に向けた調査研究』を悉皆方式に見直す」ことや、「『高校生の学習到達把握に関する検討委員会』を発足させる」ことになりましたが、その見直し内容がそのまま「予算編成のポイント」となって表れたことが分かります。
そして、9月の概算要求では、予算の大項目名が「少人数学級の推進をはじめ社会経済のイノベーションを進める人材の育成」だったものが、予算(案)では、「世界トップレベルの学力・規範意識による日本の成長を牽引する人材の育成」と変わっています。
政権交代により、政策が大きく方向転換したことが読み取れます。
義務教育費国庫負担金
教職員改善計画案(5ヶ年計画)
概算要求では、平成25年度から29年度の5ヵ年計画で、「既存の少人数学級のための加配(約9,100人)」に上乗せする形で、教職員定数を27,800人(9月の概算要求時)改善する計画でしたが、予算(案)では、取り入れられませんでした。
なお、少人数学級が予算措置されなかった理由については、このサイト内の別記事で、詳しく紹介していますので、是非そちらをご覧下さい。
概算要求(9月) | 概算要求(1月) | 予算(案) | |
「教職員定数改善計画案(5ヵ年計画)」改善総数 | 27,800人 | 26,700人 | 0人 |
教職員定数(平成25年度分)
平成25年度は、35人学級以下学級の推進のための定数改善はありませんでした。
「いじめ問題への対応など学校運営の改善充実」や、「小学校における専科教育の充実」などのための教職員加配定数が、1,400人改善されましたが、少子化を踏まえた教職員定数の合理化減▲600人を合わせると、800人の定数改善でした。
なお、平成25年1月27日の「財務省・文部科学省合意」で、「今後の少人数学級の推進や計画的な定数配置については、引き続き検討する」ことが決定されました。
概算要求(9月) | 概算要求(1月) | 予算(案) | 9月の概算要求と予算(案)の差 | |
---|---|---|---|---|
35人以下学級の推進など学級規模の適正化 | 3,900人 | ー | 0人 | ▲3,900人 |
いじめ問題への対応など学校運営の改善充実 | 400人 | ー | 400人(うち200人は主幹教諭の配置促進) | +-0人 |
学力・学習意欲向上支援~教育格差解消のための学習支援~ | 300人 | ー | 0人 | ▲300人 |
インクルーシブ教育システム構築に向けた通級指導など特別支援教育の充実 | 600人 | ー | 600人 | +-0人 |
小学校における専科教育の充実 | 100人 | ー | 400人(小・中連携、理数・外国語教育等の先進的な取組への支援) | +300人 |
外国語児童生徒等への日本語指導 | 100人 | ー | 0人 | ▲100人 |
学校・地域連携推進等の取組みへの支援 | 100人 | ー | 0人 | ▲100人 |
教員の資質向上に対する支援 | 100人 | ー | 0人 | ▲100人 |
既存の研修等定数を合理化減 | ▲100人 | ー | 0人 | +100人 |
教職員定数の合理化減 | 0人 | ー | ▲600人 | ▲600人 |
教職員定数の自然減 | ▲3,200人 | ▲3,200人 | ▲3,200人 | +-0人 |
合計 | 5,500人 (自然減を加えると2,300人) | 5,200人(自然減を加えると2,000人) | 800人(自然減を加えると▲2,400人) | ▲4,700人 |
補習等のための指導員等派遣事業~学校生き生きサポート人材の活用~
新規で、「補習等のための指導員等派遣事業~学校生き生きサポート人材の活用~」として、約7千人分(常勤教員ベースで2,100人相当)の予算が付きました。
これは、放課後や土曜日における学習、補充学習など学力向上方策として、地域人材による指導等を活用するものでした。
理科の観察・実験の準備に係る補助員の配置
「理科の観察・実験の準備に係る補助員の配置」として、教員を支援する観察実験アシスタント(PASEO)を配置するための経費にかかる補助を行うための予算は、小学校2,100校、中学校1,100校分が措置されました。
情報通信技術を活用した学びの推進
「情報通信技術を活用した学びの推進」として、「学びのイノベーション事業」に2億8,100万円を要求しましたが、予算措置されたのは2億5,700万円でした。
新規で「ICTを活用した課題解決型学習の推進事業」に2億9,900万円を要求しましたが、措置された予算は、1億6,100万円でした。
合計すると、5億8,000万円の要求に対して、予算措置は、4億1,800万でした。
それでも、平成24年度予算額より1億3,800万円の増でした。
いじめ対策等総合推進事業
概算要求でも要求していましたが、新規の「国及び自治体に外部人材活用によるいじめ問題への支援体制を構築する取組」として、1億4,700万円の予算が措置されました。
その内容は、「『いじめ問題アドバイザー』の配置」と「幅広い外部専門家を活用したいじめ問題等を第三者的立場から調整・解決する取組、学校を支援する取組みの促進」でした。
その他、「いじめの未然防止・早期発見・早期対応」のための学校への支援の中で、特に、「学校における働き方改革」に通じるものを以下に書き出しました。
インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の充実
「インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の充実」として、新しく「インクルーシブ教育システム構築事業」のための予算が措置されました。
この中には、学校に通う児童生徒の中で医療的ケアが必要な児童生徒のための、「医療的ケアのための看護師の配置」としての約330人分(概算要求299人)の予算も含まれました。
その他、「合理的配慮協力員」約120人、「早期支援コーディネーター」約50人、「ST(言語聴覚士),OT(作業療法士),PT(理学療法士)、心理学の専門家等」約360人も含まれました。
概算要求額は、13億600万円でしたが、予算額は、5億1,100万円増の18億1,700万円が措置されました。
地域キャリア教育支援協議会設置促進事業
企業等による出前事業等の教育活動支援の促進や職場体験・インターンシップ受入れ先の開拓やマッチング等を行う「地域キャリア教育支援協議会」の設置を促進するための事業である「地域キャリア教育支援協議会設置促進事業」へは、概算要求では6,000万円を要求していました。
措置された予算額は、2地域×7ブロックに対して、4,300万円でした。
学びを通じた地域づくりと学校・地域・家庭の協同
学校・家庭・地域の連携による教育支援活動推進事業
「学校・家庭・地域の連携による教育支援活動推進事業」として、492億円を要求しました。概算要求では、447億円だったので、45億円の増でした。
地域とともにある学校づくりの推進(コミュニティ・スクール等)
「地域とともにある学校づくりの推進(コミュニティ・スクール等)」として、保護者や地域住民が学校運営に参画する「コミュニティ・スクール」を充実・拡大するために、1億7,800万円の予算が措置されました。
平成24年度に比べて3,900万円の増でした。
平成28年度までに全公立小中学校の1割(約3,000校)にコミュニティ・スクールを拡充する計画でした。
この計画では、「コミュニティ・スクール導入に関する実践研究」として、60市町村への教員・事務職員加配措置、「コミュニティ・スクールのマネジメント力強化に関する実践研究」として、200校への事務職員加配措置も、別途で行われました。
スポーツ立国の実現を目指したスポーツの振興
運動部活動地域連携再構築事業
「運動部活動地域連携再構築事業」として、66の都道府県・指定都市教育委員会に「運動部活動等推進委員会」を設置し、地域のスポーツ指導者を中学校・高等学校等へ派遣することを推進する計画でした。
日本中学校体育連盟や全国高等学校体育連盟、日本体育協会、大学法人等との連携・協力の在り方についての実践研究を行うための予算も措置されました。
事業全体の概算要求額は、2億7,200万円でしたが、予算額もほぼ満額でした。
スポーツ for all プロジェクト
「スポーツ for all プロジェクト」のための予算が新規で措置されました。
「地域を活用した学校丸ごと子どもの体力推進事業」「スポーツを通じた地域コミュニティ活性化促進事業」により、すべての国民がその自発性の下に、各々の関心、適性等に応じて日常的にスポーツに親しめる環境を整備するための施策でした。
また、そのころ東京都が招致を目指していた2020オリンピック・パラリンピックに向けた社会的機運を高めるための方策でもありました。
概算要求額9億9,600万円に対して、4億2,900万円の予算が付きました。
地域スポーツとトップスポーツの好循環推進プロジェクト
「地域スポーツとトップスポーツの好循環推進プロジェクト」では、トップアスリートによる地域のジュニアアスリートへの指導や指導者に対する研修会を開催するとともに、学校に「小学校体育活動コーディネーター」を派遣することなどを通じて、地域スポーツとトップスポーツの好循環を実現するための予算が措置されました。
概算要求額7億900万円に対して、5億8,900万円を得ることができました。
平成24年度に比べて700万円の増でした。
子ども安心プロジェクトの充実
通学路安全推進事業
「通学路安全推進事業」とは、
通学路の安全を確保するために、特に対策が必要な市町村に対し、通学路安全対策アドバイザーを派遣し、専門的な見地からの必要な指導・助言の下、学校、教育委員会、関係機関等の連携による通学路の合同点検や安全対策の検討を行う。また、各地の取組の成果を全国に周知し,通学路の安全対策に対する情報の共有を図る
ものです。
新規で1億4,900万円が措置されました。
まとめ
平成25年度予算は、平成24年9月の概算要求→平成24年12月政権交代→平成25年1月概算要求の見直し→平成25年2月予算(案)→国会審議という流れを経て、ようやく成立しました。
その内容は、新政権の意向を重視したものに変化しました。
少人数学級については、5ヵ年計画が予算措置されなかっただけでなく、平成25年度単年での措置もされませんでした。
そのかわり、「いじめ問題への対応など学校運営の改善充実」や「通級指導など特別支援教育の充実」等に必要な教職員定数の改善(800人)がありました。
また、「補習等のための指導員等派遣事業」として、約7,000人(常勤教員ベースで2,100人相当)の人員措置がありました。
さらに、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、理科の観察実験の補助員、看護師、学校支援地域本部、地域キャリア教育支援協議会、コミュニティー・スクール、運動部活動等推進委員会、通学路安全対策アドバイザーなど、「学校における働き方改革」に関連する政策も少しずつ進められました。
次回は、「学校における働き方改革は可能か⑲~7か年で33,500人の教職員配置の改善を要求した平成26年度概算要求~」で、平成26年度の文部科学省の「学校における働き方改革」に関連する方策がどのように予算に反映されていったのかについて書きたいと思います。
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