はじめに
前回の記事「コロナ禍で少人数学級への移行は可能か~文部科学省はずっと提案し続けている!⑤~平成28年度予算から平成29年度予算まで~」では、平成28年度文部科学省概算要求から平成29年度の予算が成立するまでの経緯について説明した。
その中で、教職員定数をめぐる財務省と文部科学省の攻防について書いた。
そして、平成29年度予算では、義務標準法の改正により、10年間で加配定数の約3割を基礎定数化するという予算措置がされたことについても触れた。
このことにより、「少人数指導等の推進のための基礎定数」が新設された。
今回の記事では、その後、平成30年度予算成立までに、文部科学省が少人数学級実現に向けてどんな取り組みをしてきたか、まとめてみた。
はじめに言っておくが、平成30年度予算では、少人数学級実現のための施策は皆無であった。
しかし、平成29年度中に行われた施策の中には、平成29年8月29日に文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会より「学校における働き方改革に係る緊急提言」が発出されたという重要事項が含まれる。
また、中央教育審議会で、平成29年12月22日に発表された「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(中間まとめ)」という文書で「学校・教師が担う業務の明確化・適正化」という項目により、
- 基本的には学校以外が担うべき業務
- 学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務
- 教師の業務だが、負担軽減が可能な業務
を示した重要な施策が含まれている。
そして、平成30年度予算で新たに部活動指導員のための予算も成立したため、しっかり見てほしい。
この記事を読んでほしい人
- 現職の教員
- 教育関係者
- 保護者の方
- 教育問題に興味がある人
この記事を読むと分かること
- 少人数学級がどのようにして進められてきたのかの経緯(平成30年度予算)
「学校における働き方改革に係る緊急提言」について
平成29年8月29日文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会より、「学校における働き方改革に係る緊急提言」が発表された。
「学校における働き方改革」を早急に進めていくことが必要であるから、
「今できることは直ちに行う」
ための「緊急提言」であった。
「新学習指導要領の円滑な実施と学校における働き方改革のための指導・運営体制の構築」(平成30年度概算要求)
「学校における働き方改革緊急提言について」を受けて、平成30年度概算要求が行われた。
教員の勤務実態調査(平成28年)の速報値によると、
教員の勤務は、看過できない深刻な状況
である。
また、教諭の1週間当たりの学内総勤務時間(持ち帰りは含まない)の平成18年度調査比が、
小学校で+4時間09分、中学校で+5時間12分
であり、
新学習指導要領において、
「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善、教材研究等が求められており、
授業時数については、小3~小6において週1コマ相当増加
する。
このことから、「学校における働き方改革」を行うための方策が、概算要求に盛り込まれ、「新学習指導要領の円滑な実施と学校における働き方改革のための指導・運営体制の構築」として、公表された。
概算要求には、「教員の働き方改革」関連の教職員定数の改善として、3,200人増が盛り込まれた。
その中に、
持ち授業時数の減少等を通じた教員の負担軽減と、それに伴う授業準備の充実により、教育の質の向上を図る
ために、
① 小学校専科指導に必要な教員の充実+2,200人
② 中学校における指導体制の強化に必要な教員の充実+500人
を要求する内容が含まれる。
また、「専門スタッフ・外部人材の拡充」として、
中学校の部活動の指導員を7,100人を新たに配置するために、15億円の予算を要求する提案がされた。
そして、「学校における業務の適正化」を行うために、前年比6億円増の11億円の予算が付けられた。
予算の裏付けのある教職員定数の中期見通しを策定(~平成38年度までの9ヶ年計画)
「新学習指導要領の円滑な実施と学校における働き方改革のための指導・運営体制の構築」(平成30年度概算要求)では、更に、予算の裏付けのある教職員定数の中期見通し(~平成38年度までの9ヶ年計画)を策定した。
ここには、平成38年度までの9ヶ年の改善予定数として、教職員定数を、合計で22,755人の増とすることが計画されている。
「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」中間まとめ概要
「中央教育審議会」で、平成29年12月22日に「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(中間まとめ)」という文書が公表された。
「学校・教師が担う業務の明確化・適正化」という項目が設けられ、今まで学校や教師が当たり前に担ってきた業務を、
- 基本的には学校以外が担うべき業務
- 学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務
- 教師の業務だが、負担軽減が可能な業務
の3つに分け、その内容が明示された。
そして、学校や教師以外に、誰がその業務を担うのが適当であるのかの提案もされている。
平成30年度予算
国会での審議を経て、平成30年度予算は、以下のように成立した。
平成30年度予算概算要求と予算の比較
義務教育費国庫負担金
教職員定数
教職員定数関連の予算は概算要求から大幅に低い金額で決定された。
概算要求数 | 概算要求額 | 予算数 | 予算額 | |
教職員定数の改善 | +3,415人 | +73億円 | / | / |
加配定数の基礎定数化 | +385人 | +8億円 | +473人 | +19億円 |
加配定数の改善 | / | / | +395人 | ↓ |
教職員定数の自然減等 | △3,000人 | △65億円 | △4,150人 | △89億円 |
合計 | +800人 | +16億円 | △3,282人 | △70億円 |
その他
義務教育費国庫負担金の教職員定数以外の予算では、人事院勧告の反映による給与改定により、予算が大幅に増加した。
公立中学校の部活動手当については、土日の指導業務に係る手当を3,000円→3,600円に引き上げた。
一方で、休養日の設定など部活動運営の適正化の取り組みによる、手当の減額を見越して予算が組まれた。
概算要求額 | 概算要求数 | 予算額 | 予算数 | |
部活動手当の改善等 | 部活動手当支給要件の見直し | / | +3億円 | / |
部活動運営適正化による部活動手当の減 | / | / | △3億円 | / |
教職員の若返り等による給与減 | △79億円 | / | △88億円 | / |
教員給与の見直し | +3億円 | / | / | / |
人事院勧告の反映による給与改定 | / | / | +136億円 | / |
合計 | △76億円 | / | +48億円 | / |
中学校における部活動指導員の配置に係る予算
新たに設けられた中学校における部活動指導員の配置に係る予算は、概算要求の3分の1の金額で予算が決定された。
概算要求額 | 概算要求数 | 予算額 | 予算数 | |
中学校における部活動指導員の配置 | 15億円 | 7,100人 | 5億円 | 4,500人 |
まとめ
「学校の働き方改革」の名の下、様々な改革を進めるべく、文部科学省が概算要求をして、教職員定数の大幅増等の要求をしたものの、結果は、満足できるものとは言いがたかった。
さらに、「予算の裏付けのある教職員定数の中期見通し案(~平成38年度までの9ヶ年計画)」も、採用が見送られた。
よって、少人数学級推進への道は、閉ざされたままだった。
しかし、中央教育審議会で、平成29年12月22日に発表された「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(中間まとめ)」という文書で「学校・教師が担う業務の明確化・適正化」という項目により、
- 基本的には学校以外が担うべき業務
- 学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務
- 教師の業務だが、負担軽減が可能な業務
が示されたことは、学校における働き方改革を進める上で大きな成果だった。
次回「コロナ禍で少人数学級への移行は可能か~文部科学省はずっと提案し続けている!⑦~平成31年度(令和元年度)予算~」では、少人数学級実現のための進展は見られなかったものの学校現場における働き方改革のための業務の適正化を進めた平成31年度(令和元年度)予算について、説明する。
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