地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか②~校長・副校長・教頭は、60歳以降、役職定年により、降格?~はじめに
結論を先に言います。
です。
地方公務員の「役職定年制(管理監督職勤務上限年齢制)導入」について知ったとき、元公立学校教員である私が抱いた最大の疑問は、
「公立学校の校長・副校長・教頭は、60歳以降、役職定年により降格して、平(管理職でない立場の)教員に戻るの?」
ということでした。
地方公務員法改正案施行前である現時点においては、校長・副校長・教頭の立場で定年退職した後、再任用で再び校長・副校長・教頭に任用されるケースがあります。(自治体によって違います。)
一方、平(管理職でない立場の)教員として再任用され、一般の教員と同じように学校で働いている元校長・副校長・教頭や、再任用短時間勤務職員として学校や学校以外の場所で短時間勤務をしている元校長・副校長・教頭もいます。(自治体によって違います。)
そんな中、元校長・副校長・教頭が学校で平教員として働く場合には、問題もあります。
それは、年下である現役管理職や同僚が、元管理職であった人に対して遠慮してしまい、指示や要求を出しにくいことです。
それゆえ、私も「公立学校の校長・副校長・教頭は、60歳以降、役職定年により降格して、平教員に戻るの?」という疑問を抱いたのです。
正直に言うと、「元管理職であった人が、同僚として、又は部下として働くことになるのはちょっと困るなあ。」という感じです。
さて、前回の記事「地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか①~定年前再任用短時間勤務制~」では、令和3年6月4日に成立した「国家公務員法改正案(国家公務員法等の一部を改正する法律)」と「地方公務員法改正案(地方公務員法の一部を改正する法律)」についての説明をしました。
そして、その中でも特に「定年前再任用短時間勤務制」について詳しく書きました。
今回は、まず、前回の記事でも説明した「役職定年制(管理監督職勤務上限年齢制)」について、おさらいします。
その後、役職定年制(管理監督職勤務上限年齢制)についての質問に対する総務省の回答から、「再任用職員の管理監督職への登用」と「管理監督職勤務上限年齢制の例外措置」について、調べていきます。
何と、この「管理監督職勤務上限年齢制の例外措置」について詳しく調べていくと、「公立学校の校長・副校長・教頭は、60歳以降、役職定年により降格し、平教員に戻るのか?」という疑問についての答えが見つかったのです!
役職定年制(管理監督職勤務上限年齢制)
役職定年制(管理監督職勤務上限年齢制)とは
(※)指定職とは……一般職の公務員の職種による区分の一。国家公務員では、事務次官、外局の長、試験所・研究所・病院・療養所の長、その他の官職を占める職員。地方公務員では東京都の局長などがこれに該当する。
(※※)俸給の特別調整額とは……管理又は監督の地位にある職員(以下「管理職」という)について、その特殊性に基づいて支給される手当。
役職定年制の特例(国家公務員法第81条の2~第81条の5)
管理監督職勤務上限年齢による降任等の特例(特例任用)
任命権者は、管理監督職を占める職員について、管理監督職勤務上限年齢による降任等(他の官職への異動)により、以下の1~3のいずれかに該当するため、公務の運営に著しい支障が生ずる場合に限り、当該職員を引き続き管理監督職として勤務させることができます。
- 職員の職務の遂行上の特別の事情がある場合
- 職員の職務の特殊性によりそのポストの欠員の補充が困難となる場合
- 当該管理監督職が特定の管理監督職グループ(※)に属しており、当該グループ内の欠員の補充が困難となる場合 (※)職務の内容が相互に類似する複数の管理監督職(指定職を除く。)で、これらの欠員を容易に補充することができない年齢別構成その他の特別の事情がある管理監督職として人事院規則で定めるもの
特例任用の再延長
任命権者は、上記要件が継続している場合には、人事院の承認を得て、1年以内の期間内で再延長ができます。(1と2の要件の場合は最長3年、3の要件の場合は定年退職日まで(最長5年))
地方公務員の定年引上げの実施に向けた疑問に対する総務省の回答より(「定年引上げの実施に向けた質疑応答(第4版/令和4年2月15日)」より)
地方公務員に役職定年制(管理監督職勤務上限年齢制)を導入する理由
どうして地方公務員に役職定年制を導入するのですか?
管理監督職と再任用職員
定年前再任用短時間勤務職員の管理監督職への任用
定年前再任用短時間勤務職員を管理監督職に就けることはできますか?
暫定再任用職員の管理監督職への任用
暫定再任用職員を管理監督職に就けることはできますか?
- 暫定再任用職員の管理職への任用を禁ずる規定はない。
- 各地方公共団体においては、常勤職員の数に比べて常時勤務を要する管理監督職の数が限られる。
- 今般の法改正で定年引上げを行う一方で組織の新陳代謝を図るため管理監督職勤務上限年齢制が設けられた趣旨を勘案すること。
- 定年引上げ完了とともに、暫定再任用措置が終了し、常時勤務を要する管理監督職を占める60歳超職員の数は原則0になることを勘案すること。
管理監督職勤務上限年齢制の例外措置
「管理監督職勤務上限年齢制の例外措置」の種類
管理監督職勤務上限年齢制の例外措置にはどのようなものがありますか?
対象となる職の性質(職務・責任の特殊性や欠員補充の困難性)に対応して特別の定めをするもの
①管理監督職勤務上限年齢制の適用除外
(※)特例定年とは……職務と責任の特殊性・欠員補充の困難性により、定年を60歳とすることが適当でないため、公務員の一部の職種で原則の定年年齢(60歳)とは異なる定年年齢を定めること(国家公務員の例)⇒【病院・療養所・診療所等の医師、歯科医師→65歳】【守衛、用務員等→63歳】【特殊な官職等(事務次官、在外公館に勤務する職員、迎賓館長等)→61歳~65歳】
(※※)特別職に属する国家公務員とは……国家公務員には、一般職と特別職があり、裁判所職員、国会職員、防衛省の職員等(国家公務員法第2条第3項に列挙)は特別職、それ以外の全ての職員は一般職とされている。
(※※※)法(国家公務員法)第81条の2の規定とは……「任命権者は、管理監督職(一般職の職員の給与に関する法律第十条の二第一項に規定する官職及びこれに準ずる官職として人事院規則で定める官職及び指定職(これらの官職のうち、病院、療養所、診療所その他の国の部局又は機関に勤務する医師及び歯科医師が占める官職その他その職務の責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることによりこの条の規定を適用することが著しく不適当と認められる官職として人事院規則で定める官職を除く。)をいう。以下この目及び第八十一条の七において同じ。)を占める職員でその占める管理監督職に係る管理監督職勤務上限年齢に達している職員について、異動期間(当該管理監督職勤務上限年齢に達した日の翌日から同日以降における最初の四月一日までの間をいう。以下この目及び同条において同じ。)に管理監督職以外の官職又は管理監督職勤務上限年齢が当該職員の年齢を超える管理監督職(以下この項及び第三項においてこれらの官職を「他の官職」という。)への降任または転任(俸給を伴う転任に限る。)をするものとする。ただし、異動期間中に、この法律の他の規定により当該職員について他の官職への昇任、降任若しくは転任をした場合又は第八十一条の七第一項の規定により当該職員を管理監督職を占めたまま引き続き勤務させることとした場合は、この限りではない。
②管理監督職勤務上限年齢の例外(60歳を超える管理監督職勤務上限年齢の設定)
対象となる職員又は職員グループの性質(職務遂行上の事情、職務の特殊性や職員の年齢別構成等による欠員補充の困難性)に対して特別の定めをするもの
③管理監督職勤務上限年齢による降任等の特例(特例任用)…(【役職定年制の特例】としてこの記事で前述のものの詳細)
以下のいずれかに該当する管理監督職勤務上限年齢の対象職員については、他の職に異動することで、公務の運営に著しい支障が生ずる場合には、1年を超えない期間内で異動期間を延長し、引き続き管理監督職を占めたまま勤務させることができることとする。
地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか②~校長・副校長・教頭は、60歳以降、役職定年により、降格?~まとめ
今回「管理監督職勤務上限年齢制の例外措置」について調べてみた結果、以下の3種類があることが分かりました。
①管理監督職勤務上限年齢制の適用除外
②管理監督職勤務上限年齢の例外(60歳を超える管理監督職勤務上限年齢の設定)
③管理監督職勤務上限年齢による降任等の特例(特例任用)
そして、③管理監督職勤務上限年齢による降任等の例外(特例任用)は、さらに、以下の3つの種類に分かれることも明らかになりました。
- 職員の職務の遂行上の特別の事情がある場合
- 職員の職務の特殊性によりそのポストの欠員の補充が困難となる場合
- 当該管理監督職が特定の管理監督職グループ(※)に属しており、当該グループ内の欠員の補充が困難となる場合 (※)職務の内容が相互に類似する複数の管理監督職(指定職を除く。)で、これらの欠員を容易に補充することができない年齢別構成その他の特別の事情がある管理監督職として人事院規則で定めるもの
この、3つ目の「当該管理監督職が特定の管理監督職グループ(※)に属しており、当該グループ内の欠員の補充が困難となる場合」の例に、
公立学校(幼稚園を含む。)校長・副校長・教頭及び児童相談所長等について、年齢別構成の偏り等により後任の補充が困難な場合が想定される。
という説明がありました。
したがって、「公立学校の校長・副校長・教頭は、60歳以降、役職定年により降格して、平教員に戻るの?」に対する結論は、
ということになります。
「平教員」といえども、学校内には、校長等の補佐を行う「主幹教諭」、他の教諭等への教育指導の改善及び充実のための指導助言を行う「指導教諭」などの、管理職ではないけれど、マネジメント力や他の教職員への指導力が必要な職があります。
役職定年後の元校長・副校長・教頭が経験を生かしてこれらの職を担う場合があると思います。(各自治体により異なります。)
そして、現在の制度下で再任用される管理職がそうであるように、教育委員会などの関連する施設などに配置される場合もあるでしょう。(各自治体により異なります。)
しかし、今回の法律の改正の内容からして、60歳を超えた元教員が、教育委員会や関連する施設の役職に就くことは、まず考えられません。(各自治体により異なります。)
また、中には、60歳以降の定年前に「定年前再任用短時間勤務制」を利用して、短時間勤務で理科支援員や特別教育支援員、初任者指導教員などの職に従事する人もあると思われます。
このように、法改正により定年が延長されるとともに、法制化される「役職定年制」により、「校長・副校長・教頭だった人が、60歳を超えて再び校長・副校長・教頭になったり、教育委員会などの関連施設で役職に就いたりすることは少なくなり、平教員として現場(学校)で働くことは増えるだろう。」と予想されます。
しかしながら、自治体の条例により、
- 現在でも、60歳の定年後は、再任用制度により、最長65歳までは勤務が保障されること(注意!!※)
- 法改正後も定年の段階的な引上げ期間中は、65歳まで「暫定再任用制度(※※)」で勤務が保障されること(注意!!※)
ということから考えると、校長・副校長・教頭以外の非管理職の職員にとっては、今回の法改正後も現状とあまり変わらないように思えます。(ただし、60歳を超えて常勤の職員として定年まで働く場合は、現行の再任用職員よりも待遇は良くなります。)
※注意!!各自治体により実体が異なります!
ただし、この法改正により、60歳を超えても働く教職員が今までより増えることは間違いありません。
そして、今回「定年前再任用短時間勤務制」という新たな制度も法制化されました。
この制度は、フルタイムで働けない事情(家族の介護、体力の衰え、持病)がある人にとっては、定年までの勤務が保障されるありがたい制度(地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか①~定年前再任用短時間勤務制~参照)でしょう。(類似した制度に、「高齢者部分休業制度」(地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか①~定年前再任用短時間勤務制~参照)というものもあります。)
しかしながら、60歳以降も働き続けることを希望する教職員に、実際に様々な働き方や希望に対応した職種が、その人数分きちんと提供されるのか、不安が募ります。
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