- はじめに
- 令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査/調査の概要
- 学校内のいじめや暴力行為対策として効果的だったと思われる政府や文部科学省の施策
- 少年法改正
- 平成18年 教育基本法の改正
- 平成18年教育基本法の改正により始まった教育改革
- いじめの問題への取組みの徹底について(通知/平成18年10月19日)
- 問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知/平成19年2月5日)
- 国家公務員法等改正法(平成19年7月公布)
- 児童生徒の教育相談の充実についてー生き生きとした子どもを育てる相談体制づくりー(平成19年7月 報告)
- 暴力行為のない学校づくりについて(報告書/平成23年7月/暴力行為のない学校づくり研究会)
- 体罰の禁止及び児童生徒の理解に基づく指導の徹底について(通知/平成25年3月13日)
- 地方自治体の体罰防止に対する取組み
- いじめ防止対策推進法(平成25年9月28日施行)
- 地方公務員法及び地方独立行政法人法の一部を改正する法律(平成26年5月14日公布)
- 国立教育政策研究所 生徒指導リーフ「アンケート・教育相談をいじめ『発見』につなげる」(平成27年11月)
- 平成28年4月教職員人事評価制度の導入
- いじめ防止等のための基本的な方針(平成25年10月11日文部科学大臣決定)の改定について(平成29年3月16日)
- 令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果/学校内の暴力行為といじめ
- 小学校、中学校、高等学校でいじめや暴力行為対策として有効だったと思う政府や文部科学省の施策
- 令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果/不登校・自殺
- まとめ
はじめに
先日、「令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」が発表されましたね。
文部科学省が毎年行っている調査だよね。児童生徒のいじめや暴力行為などの発生数を調査して公表しているんだ。
今までのいじめや暴力行為に対する政府や文部科学省の政策や、いじめや暴力行為の発生率の変遷も知りたいわ。
令和2年10月22日に、文部科学省より「令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査結果」が発表されました。
「小学校でいじめや暴力行為が増えている。」という気になる結果が出たようです。
そこで、この記事では、児童生徒の問題行動の中でも、特に学校内の「いじめ」と「暴力行為」に絞って調べていきたいと思います。
まず、元教師である私が、ここ20年ほどの間で、学校内での「いじめ」や「暴力行為」の対策として有効であったと思う政府や文部科学省の施策について、順番に説明します。
次に、完全なエビデンスや根拠とはならないかもしれませんが、児童生徒のいじめや暴力行為に関する調査結果の変遷について、その当時行われていた政府や文部科学省の施策と照らし合わせ、施策の効果が調査結果に表れているのかどうか、検証していきたいと思います。
ここで、政府や文部科学省の施策の時期と、いじめや暴力行為に関する調査結果の間に、プラスの相関性があれば、私の考えもまんざら間違いではない、というわけです。
(なお、「学校における働き方改革は可能か」シリーズは、一旦お休みいたします。)
令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査/調査の概要
まずは、「令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査」について説明します。
令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査の目的は、
生徒指導上の諸課題の現状を把握することにより、今後の施策の推進に資するものとする。
とあります。
調査項目は、
の8項目です。
学校内のいじめや暴力行為対策として効果的だったと思われる政府や文部科学省の施策
少年法改正
学校内のいじめや暴力行為に関する調査結果に関係がありそうだから、まず、「少年法」の改正について、調べてみます!
学校内のいじめや暴力行為に関する調査結果には、「少年法」の改正が関わっているのではないかと思い、少年法改正の経過について、調べてみました。
平成12年改正
平成19年改正
平成20年改正
平成26年改正
少年に対する刑罰が、だんだん厳しくなってきたんだね。
14歳以上の中学生でも、犯罪行為をすれば刑罰を受けないといけなくなったから、中学生の暴力行為が減ったんじゃないかな。
平成18年 教育基本法の改正
「教育基本法の改正」も、学校内のいじめや暴力行為に関する調査結果に関係ありそう。調べてみよう!
平成18年に60年ぶりに教育基本法の改定が行われたことも、学校内のいじめや暴力行為に関する調査結果に影響していると考え、教育基本法の改正について述べます。
教育基本法の改正の経緯
平成18年に、昭和22年以来、60年ぶりに教育基本法が改正されました。
教育水準が向上し、生活が豊かになる一方で、都市化や少子高齢化の進展などによって、教育を取り巻く環境が大きく変わり、子どものモラルや学ぶ意欲の低下、家庭や地域の教育力の低下などが指摘される中でも、教育基本法はずっと変わりませんでした。
しかし、平成12年12月に「教育改革国民会議」により、教育基本法の見直しが提言されました。
そして、中央教育審議会は、平成15年3月に「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興計画の在り方について」という答申を提出しました。
これらを踏まえ、教育基本法の改正案が平成15年3月から約3年間にわたって検討され、「全部改正案」として閣議決定され、平成18年4月に国会に提出され、12月22日から施行されました。
「教育基本法」が60年間も改正されてこなかったなんてびっくり!
教育基本法の改正の内容
前文
日本国民が願う理想として、「民主的で文化的な国家」の発展と「世界の平和と人類の福祉の向上」への貢献を掲げ、その理想を実現するために、改正前の教育基本法に引き続き、「個人の尊重」を重んずることを宣言するとともに、新たに「公共の精神」の尊重、「豊かな人間性と創造性」や「伝統の継承」を規定しています。
教育の目的・目標と理念を明らかにする
えっ!平成18年まで、「教育の目標と理念」が明らかにされてこなかったの?これでやっと明確になったんですね。
教育の実施に関する基本的な事項を見直す
平成18年までは、大学や家庭教育などに関する規定がなかったんだね。
教育基本法の改正で、家庭教育や学校・家庭・地域の連携協力が重要視されるようになったことは、児童生徒の問題行動の対策としては有効だったんじゃない?
教育行政のあり方や教育振興基計画の策定について定める
教育に対する地方公共団体の役割が重要視されるようになったんですね。
平成18年教育基本法の改正により始まった教育改革
教育改革のための重点行動計画(平成18年1月17日)
教育基本法の改正とともに、教育改革も始まったんだね。
平成18年5月に教育基本法改正法案が発表されるのに先立ち、平成18年1月17日に「教育改革のための重点行動計画」が発表されました。
文部科学省は、それを基に、国民向けに「教育改革の例」として、以下のものを示しました。
このとき示した下記のような教育改革は、ほとんどのものが実現されています。
「全国的な学力調査の実施」や、「教員免許更新制度」、「学校評価システム」などが、このとき提案されたんですね。
教員免許更新制度が始まって、今までも自主的に研修をしてきた先生には、ほとんど意味がなかったかもしれないけど、今まであまり熱心に研修をしてこなかった先生にとっては、最新の教育方法や理念などを学ぶ機会になったよね。
いじめの問題への取組みの徹底について(通知/平成18年10月19日)
いじめによる児童生徒の自殺が多発している現状を受けて、平成18年10月19日に「いじめの問題への取組みの徹底について」という通知が、文部科学省から出されました。
また、別添として「いじめの問題への取組についてのチェックポイント」という文書も示されました。
スクールカウンセラーを活用するように書いてあるわね。
この頃のいじめの定義は今のものと違っているよ。
「いじめに関するアンケート」もこの頃から行われるようになったのね。
学校ごとにいじめへの対処方針や指導計画を作成して、保護者に公表するように書かれているね。
問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知/平成19年2月5日)
平成19年2月5日に、「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)」が出されたことも、学校内のいじめや暴力行為に関する調査結果に影響を及ぼしているはずだよね。
平成19年2月5日「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)」が文部科学省から出されました。
1 生徒指導の充実について
全職員が一致協力して一貫した指導を粘り強く行うこと、犯罪行為の可能性がある問題行動については、警察に通報するように、ということが書いてあるわ。
2 出席停止制度の活用について
問題行動を繰り返す場合は、出席停止の措置を検討するように示しているね。
問題行動に対して、警察の介入や出席停止の措置も辞さないという姿勢を示すことは、暴力行為やいじめの軽減に効果があったんじゃない?
3 懲戒・体罰について
懲戒にはOKなものもあるけど、体罰は禁止なのね。
「いかなる場合であっても、体罰を行ってはならない。」と、文部科学省がはっきり明記したのは、まだまだ体罰容認の教師が多かった当時の学校現場に大きな影響を与えただろうね。
それまでの教師の指導に対する概念を大きく変えざるを得ない出来事だったはずよ。
別添 学校教育法11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方
1 体罰について
(5)有形力の行使以外の方法により行われた懲戒については、例えば、以下のような行為は、児童生徒に肉体的苦痛を与えるものでない限り、通常体罰には当たらない。
体罰に当たらないものが具体例で詳しく書いてあるね。
(6)なお、児童生徒から教員等に対する暴力行為に対して教員等が防衛のためにやむを得ずした有形力の行使は、もとより教育上の措置たる懲戒行為として行われたものではなく、これにより身体への侵害又は肉体的苦痛を与えた場合は体罰には該当しない。また、他の児童生徒に被害を及ぼすような暴力行為に対して、これを制止したり、目前の危険を回避するためにやむを得ずした有形力の行使についても、同様に体罰に当たらない。これらの行為については、正当防衛、正当行為等として刑事上または民事上の攻めを免れうる。
2 児童生徒を教室外に退去させる等の措置について
国家公務員法等改正法(平成19年7月公布)
平成19年7月に国家公務員法等改正法が公布されました。
国家公務員に、能力・実績主義の人事管理を徹底させるための内容が明記されています。
職員の人事評価を、「任用、給与、分限その他の人事管理の基礎とするために、職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる勤務成績の評価」と定義し、公正に行わなければならないこととする。
とあります。
この法律の改正により、地方自治体職員や公立学校教職員にも、後に、能力・実績主義の人事管理が取り入れられることになりました。
児童生徒の教育相談の充実についてー生き生きとした子どもを育てる相談体制づくりー(平成19年7月 報告)
平成19年7月に、「児童生徒の教育相談の充実についてー生き生きとした子どもを育てる相談体制づくりー」という文書が、「教育相談等に関する調査研究協力者会議」によって報告されました。
この中に、
と書かれています。
学校だけでは、児童生徒の問題行動を解決できない場合があることを踏まえ、児童相談所や民生・児童委員、警察署などの関係機関が学校を支援する体制づくりを行うことの必要性が書かれています。
また、それまで、小学校では、児童に対する教育相談があまり行われていなかった現状を踏まえ、小学校での教育相談を行うように示しています。
小学校での教育相談の実施は、児童のいじめや暴力行為の軽減に役立っているはずだよ。
心理テストの実施
「児童生徒の教育相談の充実についてー生き生きとした子どもを育てる相談体制づくりー(平成19年7月)」が報告された頃から、児童生徒に対して心理テストを実施し、その結果から、学級内の児童生徒の人間関係や指導上配慮を要する児童生徒を把握する取組みを行う学校が増えてきました。
例えば、図書文化社発行の「hyper-QU(よりよい学校生活と友達づくりのためのアンケート)」(河村茂雄 著)という心理検査は、一人一人にアンケートを実施した後、指定先に送付すると、子ども一人一人の学校生活に対する満足度などをコンピュータで分析し、その分析結果の個票を全員分印刷して学校へ送付してくれます。
また、教師が自分の学級経営の傾向や、学級内の配慮を要する子どもを見付け出すための分析結果も一緒に送付してくれます。
さらに、保護者が、自分の子どもに配られた分析結果を見て、学校生活の満足度や意欲などを知ることもできます。
私の学校でも、毎年やっていて、学級経営の参考になるわ。
暴力行為のない学校づくりについて(報告書/平成23年7月/暴力行為のない学校づくり研究会)
子どもの暴力行為が増えてきたから、暴力行為のない学校づくりをするためにどうしたらいいかについての方策を、平成23年に発表したんだね。これは、重要だね!
平成23年7月に、「暴力行為のない学校づくり研究会」より、「暴力行為のない学校づくりについて」という報告書が提出されました。
暴力行為の増加の要因
暴力行為の増加の背景
研究会での協議内容
暴力行為に対する実効的な対応を図ることは、学校における児童生徒の学習環境を改善することになり、ひいては不登校やいじめといった暴力行為以外の児童生徒の問題行動等の改善にも資することが確認された。
暴力行為をしてしまう児童生徒の抱える問題や原因に注目して、暴力行為を起こさないような対応の仕方や学級づくりを考えることが、その他の問題行動を減らすことにもなることを伝えているのね。
体罰の禁止及び児童生徒の理解に基づく指導の徹底について(通知/平成25年3月13日)
どうして体罰の禁止が児童生徒の問題行動の軽減に役立つの?
平成25年3月13日に「体罰の禁止及び児童生徒の理解に基づく指導の徹底について」という通知が文部科学省から出されました。
「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知/平成19年2月5日)」でも、体罰の禁止について詳しく記載していましたが、部活動指導での体罰がなくならない実態を踏まえ、平成25年の通知では、新たに「部活動指導について」の項目が設置されました。
ここでは、
部活動は、学校教育の一環であり、体罰が禁止されていることは当然である。
と明記されています。
地方自治体の体罰防止に対する取組み
平成25年3月に文部科学省から「体罰の禁止及び児童生徒の理解に基づく指導の徹底について」の通知が出された頃から、地方自治体の中には、「体罰防止ガイドライン」を独自に作成するところも増えました。
神奈川県の体罰防止ガイドライン(平成25年7月)
神奈川県では、平成25年7月に「体罰防止ガイドライン~神奈川からすべての体罰を根絶するために~」を通知しました。
この中で、神奈川県は、国により定められた体罰の定義を拡大解釈し、「不適切な指導」という定義を付け加えました。
これには、
等の、児童・生徒を深く傷つける行為が指定され、決して許されるものではないことが強調されています。
そして、「管理職チェックリスト」として、19項目を挙げています。
この中には、「体罰の未然防止にむけ、アンケートなどの実施や相談窓口の設置をしているか。」という項目があり、これにより、神奈川県内では、保護者や児童向けに、体罰についてのアンケートが始まったことが分かります。
これらのチェック項目の中で、もし私が管理職だったら、特に大事にしたい項目を下に転記します。
東京都の体罰防止ガイドライン(平成26年1月)
東京都では、平成26年1月に、「体罰根絶に向けた総合的な対策」を通知し、その中で体罰防止のガイドラインを示しました。
そして、神奈川県同様、体罰に加え、「暴言」や「不適切な指導」という定義を定め、教職員に禁止するものとしました。
この中で、
本来、生徒同士のいじめを防止し、迅速適切に対応することが期待されている教員等が、自ら生徒に暴言等を行うことは許されるものではない。
また、暴言等の精神的苦痛・負担を与える行為は、教育指導上、生徒に恐怖感や不信感を抱かせることとなり、負の学習効果しか期待できないため、体罰等の暴力行為と同様に指導方法として用いてはならない。
とあり、教師による児童生徒への暴言や体罰は、児童生徒に負の学習効果を与え、児童生徒による暴言や暴力へとつながっていってしまうことを示唆しています。
言い換えれば、教師の暴言や体罰を禁止することは、児童生徒のいじめや暴力行為を減らす効果がある、ということになります。
さらに、東京都は、実際の指導場面を映像化した視聴覚ビデオを作成し、教員はもとより、児童・生徒、保護者を交えて視覚的に確認し共通認識を深める、という徹底ぶりでした。
そして、教員への聞き取りや児童・生徒への質問紙調査を基本とした「体罰等実態調査」を引き続き実施する、とあります。
神奈川県や東京都のように、この頃から、全国的にも、「体罰実態調査」が、各学校で行われるようになりました。
なるほど!教師の暴言や体罰を禁止すれば、児童生徒のいじめや暴力行為も減るということね。
いじめ防止対策推進法(平成25年9月28日施行)
「いじめ防止対策推進法」が制定されたことは、社会的に見ても、大きな出来事だったよね。これは、いじめに対して大きな抑止力になったはず。
「いじめ防止推進法」が、平成25年9月28日に施行されました。
この法律では、いじめの定義や、いじめの防止等のための対策の基本理念、いじめの禁止、関係者の責務等を定めました。
いじめの定義
児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校(※)に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの
※小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校(幼稚部を除く。)
「相手が心身の苦痛を感じているならいじめ」と定義がかわったんですね。
いじめの防止基本方針等
- 国、地方公共団体及び学校の各主体による「いじめの防止等のための対策に関する基本的な方針」の策定(※)について定めること。※国及び学校は策定の義務、地方公共団体は策定の努力義務
- 地方公共団体は、関係機関等の連携を図るため、学校、教育委員会、児童相談所、法務局、警察その他関係者により構成されるいじめ問題対策連絡協議会を置くことができること。
この法律によって、各学校ごとに、「いじめの防止等のための対策に関する基本的な方針」が策定されたのね。
ぼくの勤めている中学校でも、いじめ等の問題行動について、毎月会議を開いて報告したり対策を話し合ったりしているよ。
基本的施策・いじめの防止等に関する措置
学校の設置者及び学校が講ずべき基本的施策
私の勤める小学校で、低学年でも教育相談が始まったの。
ぼくの勤務している中学校には、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーがいるよ。
- 道徳教育の充実
- 早期発見のための措置
- 相談体制の整備
- インターネットを通じて行われるいじめに対する対策の推進を定めるとともに、国、地方公共団体が講ずべき基本的施策として
- いじめ防止等の対策に従事する人材の確保等
- 調査研究の推進
- 啓発活動について定めること。
学校が講ずべき施策
学校は、いじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、複数の教職員、心理、福祉等の専門家その他の関係者により構成される組織を置くこと。
個別のいじめに対して学校が講ずべき措置
- いじめの事実確認
- いじめを受けた児童生徒又はその保護者に対する支援
- いじめを行った児童生徒に対する指導又はその保護者に対する助言について定めるとともに、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときの所轄警察署との連携について定めること。
いじめの防止等に関して学校がすべき措置
学校が、いじめをした児童生徒に対する懲戒や出席停止を含めた措置を定めることになったんですね。これは、いじめに対する抑止力にならなかったのかな?
懲戒、出席停止制度の適切な運用その他いじめの防止等に関する措置を定めること。
地方公務員法及び地方独立行政法人法の一部を改正する法律(平成26年5月14日公布)
平成26年5月に、「地方公務員法及び地方独立法人法の一部を改正する法律」が公布されました。
これは、
職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる人事評価制度を導入し、これを任用、給与、分限その他の人事管理の基礎とする。
ことを規定した法律です。
国立教育政策研究所 生徒指導リーフ「アンケート・教育相談をいじめ『発見』につなげる」(平成27年11月)
平成27年11月に、国立教育政策研究所から、「アンケート・教育相談をいじめ『発見』につなげる」というリーフレットが出されました。
ここには、
という内容が書かれています。
児童生徒の心情に配慮したアンケートの取り方や、その後の教育相談のやり方などが具体的に示してあって、分かりやすいね。
アンケートをすること自体が、いじめの抑止力になるってことね!
平成28年4月教職員人事評価制度の導入
国家公務員から地方公務員、そして、いよいよ教職員にも人事評価制度が導入されるようになったんだね。
教職員人事評価制度が導入されて、教職員も、能力や業績が任用・給与などの処遇に反映されるようになったんです。
今までみたいに、自分の学級の仕事だけやったり、自分のしたいように学級経営や授業をしたりするだけではだめになっちゃったんだよね。
校務分掌の仕事や周りの職員との協調性や、児童生徒・保護者への接し方なんかも評価されて、しかも、昇級や給与にも反映されるようになっちゃったんだよな。
教職員に人事評価制度が導入されて負担だけど、評価されることによって、授業や児童生徒の指導を丁寧にやらざるを得なくなったことは、結果的には児童生徒の問題行動を減らすことにつながったのかな?
平成28年4月に教職員人事評価制度が導入されました。
これまでの勤務評定制度に変えて、能力・業績の両面から評価するのが人事評価制度で、評価規準の明示や自己申告、面談、評価結果の開示等の仕組みにより、客観性等を確保し、人材育成にも活用するものとされました。
そして、改善方策として、
教育委員会は、評価者研修を実施するとともに、地方公務員法の趣旨を踏まえ、人事評価の結果を任用・給与などの処遇や研修に適切に反映させることによって、教職員一人一人の成長を促していく取組を進める。
と書かれています。
いじめ防止等のための基本的な方針(平成25年10月11日文部科学大臣決定)の改定について(平成29年3月16日)
「いじめ防止等のための基本的な方針(平成25年10月11日文部科学大臣決定)」が、平成29年3月16日に改定されました。
いじめの概念が広げられ、さらに細かくなっています。
また、あわせて「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」も策定されました。
令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果/学校内の暴力行為といじめ
学校の管理下における暴力行為発生率の推移
小学校・中学校・高等学校の「学校の管理下における暴力行為発生率の推移」のグラフを分析します。
学校の管理下における小学校の暴力行為発生率の推移の特徴
学校の管理下における中学校の暴力行為発生率の推移の特徴
学校の管理下における高等学校の暴力行為発生率の推移の特徴
いじめ認知率の推移
次に、小学校、中学校、高等学校の「いじめ認知(発生)率の推移」のグラフを分析します。
小学校のいじめ認知率の推移の特徴
中学校のいじめ認知率の推移の特徴
高等学校のいじめ認知率の推移の特徴
小学校・中学校・高等学校のいじめ認知率の比較
学校の管理下における暴力行為の発生率の推移やいじめの認知率の推移についての私なりの分析
これまで提示した資料と私の教師としての経験を基にした分析
小学校
平成27年頃から小学校での学校の管理下における暴力行為の発生率やいじめの認知率が急激に増えています。
ちょうど「アンケート・教育相談をいじめ『発見』につなげる(国立教育政策所 生徒指導リーフ)」が、平成27年11月に各学校に配布されました。
そしてこの頃、私の勤務していた自治体では、小学校でも、児童一人一人に対する教育相談や児童に対するいじめについてのアンケート、「hyper-QU」のような学校生活アンケートが本格的に始まりました。
これらにより、それまでは教師が気付かなかった児童のいじめや暴力行為が、教育相談やアンケートで分かるようになりました。
また、小学生は自分や友達がいじめられたり暴力を振るわれたりしたことを、隠さずにこまめに教師や保護者に言うことが多いため、細かい出来事も暴力として報告される傾向があります。
そのため、小学校での教育相談やいじめについてのアンケートの実施率が増えるにつれ、いじめや暴力件数が多くなってきているのだと思います。
さらに、平成25年に「いじめ防止対策推進法」が制定されたことによりいじめの定義の内容が変わったことが、暴力行為の定義にも波及して、ほんの小さな怪我でも、児童生徒が心身の苦痛を訴えれば、暴力行為としてカウントするようになった可能性があるということです。
もちろんそのような暴力行為の発生をとらえる手段や暴力行為に対する概念の変化によるものだけではなく、実際に私の体感としても、小学生で、自分の感情を抑えきれずに暴力をふるってしまう児童が増えていると感じています。
そして、その原因は、核家族化や、少子化、外遊びの減少や、それに伴う社会性の発達の遅れ等が影響しているのではないかと思っています。
中学校
中学校では、小学校や高等学校に比べ、全体的に暴力行為の発生率は高いです。
しかし、中学校で、平成21年度を境に暴力行為の発生率が徐々に減っている理由は何でしょうか。
今まで書いてきたように、政府や文部科学省が様々な施策を行い、各自治体、各教育委員会や各学校、教職員がそれに従って様々な対策を施してきたことによる影響が大きいと思っています。
しかし、いじめ認知率は、平成27年度から増え続けています。
これは、「アンケート・教育相談をいじめ『発見』につなげる(国立教育政策所 生徒指導リーフ)」が、平成27年11月に各学校に配布され、アンケートや教育相談の重要性やそれらをいじめ発見につなげる方策などが示されたことが影響していると思います。
なぜなら、それまでよりも実態を細かく捉えられるようになったからです。
その他に、いじめ認知率の増加に関係していると思う施策は、平成25年に「いじめ防止対策推進法」により「いじめの防止等のための基本的な方針」が策定されたことと、平成29年に「いじめの防止等のための基本的な方針」が改定されたことにより、2度に渡り、いじめの概念が変わったことです。
そして、そのたびに、より些細なことでもいじめとしてカウントされるようになったことで、いじめの認知率が増加してきているのだと考えています。
高校生
高校生にいじめや暴力行為が少ない理由は、
などが考えられると思います。
学校の管理下における暴力行為の発生率の推移やいじめの認知率の推移に関係するその他の資料
「いじめが背景事情として認められる生徒の自殺事案の発生」のたびに、児童生徒の問題行動をしっかり把握して対応するように文部科学省から求められてきたこと
残念ながら、「いじめが背景事情として認められる生徒の自殺事案の発生」が繰り返し起きており、そのたびに、文部科学省は、「いじめの兆候をいち早く把握し、迅速に対応するように。」という各学校、教育委員会宛ての通知をしてきました。
そして、その直後には、学校や教育委員会は、「いじめの緊急点検」などを行って、いじめをより細かく把握するように努めてきました。
それによって、いじめの認知件数は上がる傾向があります。
特に、平成23年度から平成24年度にかけて小学校・中学校・高等学校で、平成27年度から平成28年度にかけて小学校と中学校で、急激にいじめの認知率が増えていることは、その影響が大きいものと思われます。
「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の、いじめの概念を見直すことで、いじめの認知率を上げるように、繰り返し通知されてきたこと
いじめの認知率を上げるように何度も言われてきたんだね。
「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の際の、「いじめの概念」が各都道府県によって違うために、いじめの認知率について、各都道府県の差が、きわめて大きい状態が続いています。
そのため、「どこからをいじめと見なし、いじめ件数にカウントするか。」「どこまでは、いじめ件数にはカウントしないか。」といった、「『いじめの概念』を見直し、認知率を上げる。」指示が、毎年のように出されてきました。
そのことによって、小学校と中学校では、平成27年度からいじめの認知率が急激に増え続けています。
平成24年度から小学校でいじめの認知率が中学校を抜き、平成27年度以降ぐんぐん増えているのは、小学生が無邪気さゆえに、隠さずに教師や保護者などにいじめの被害を相談することが大きいと思います。
また、コミュニケーション能力が中・高生比べて低いために、ささいな出来事でも「いじめを受けた」と感じることが多いのも理由だと思います。
しかし、文部科学省も、
「いじめの芽」や「いじめの兆候」それも「いじめ」
いじめの認知件数が多いことは教職員の目が行き届いていることのあかし
法律上のいじめに該当する事象は、成長過程にある児童生徒が集団で学校生活を送る上でどうしても発生するものであると考えています。
と書いていますので、そのとらえ方でよいのでしょう。
そして、
いじめの認知(発生)率が上がっているから、いじめ対策ができている。
というおかしな結果になって当然、ということです。
「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」のいじめの認知率を上げることが、いじめ対策として有効ってことね。
小学校、中学校、高等学校でいじめや暴力行為対策として有効だったと思う政府や文部科学省の施策
令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果/不登校・自殺
まとめ
「いじめや暴力行為対策として有効だったと思う政府や文部科学省の施策は?」の答えを、いじめの認知率や暴力行為の発生率の調査結果と照らし合わせて証明しようと思い、調べましたが、いじめに関しては、どうやら、
「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」のいじめの認知(発生)率を上げることが、いじめ対策として有効
という、一見矛盾しているように見えるちょっと不思議な結果になってしまいました。
しかし、暴力行為に関しては、少し違います。
中学校や高等学校で暴力行為の発生率が下がっていることは、「政府や文部科学省が様々な施策を行い、各自治体、各教育委員会や各学校、教職員がそれに従って様々な対策を施してきたことによるプラスの相関性がある」、といえる結果になったと思います。
いじめについては、①どこまでをいじめととらえるかの線引きを全国一律に揃えることが難しいこと、②いじめの芽も含めて、もれなく把握しようとすればするほど、数が増えてしまうこと、の2つの理由が、いじめの認知率の数字から、実際にいじめが減っているのかどうかの判断をすることを難しくしています。
しかし、確実に言えることは、政府や文部科学省が様々な施策を行い、各自治体、各教育委員会や各学校、教職員がそれに従って様々な対策を施してきたことに意味がある、ということです。
また、児童生徒のいじめや暴力行為などの問題行動を減らすための有効な施策は、実はまだまだ他にもあり、その中でも、私が有効だと考える方法は、「少人数学級」や、「教職員定数の引き上げ」です。
この、当たり前で、一番必要だと考える施策が、なぜか、なかなか進まないのです。
児童生徒一人当たりの教職員数が上がれば、一人一人に目が届き、一人に対して教職員が向き合う時間が増え、いじめや不登校などの芽を摘むことが簡単になります。
そして、各自治体、各教育委員会や各学校、教職員は、平成18年度の教育基本法改正や平成19年度の少年法改正以降、この15年ほどの間、児童生徒の問題行動を減らすために、もう十分頑張ってきたと思います。
実際、長年教師として現場で働いてきた身として、学校の雰囲気や、先生方の指導法が、よい方向に変わってきたことを肌で感じています。
ですから、政府や文部科学省の皆さんには、
お金をかけさえすれば、速効で効果が表れるこの「少人数学級」や、「教職員定数の引き上げ」を、できるだけ早く行っていただきたいと思います。
なぜなら、そのことで、救える命があり、学校に来られるようになる子どもがいるからです。
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