はじめに
前回の記事では、新政権の下、平成23年度予算で、政策コンテストを経て小学校1年生での35人学級が実現した経緯について書きました。
しかし、小学校2年生の35人学級、他の学年でも35人学級を順次進めていく8ヵ年計画、担任以外の教職員も計画的に配置していく計画は、予算措置されなかったことについても述べました。
今回の記事では、平成24年度に、教員の業務削減(学校における働き方改革)につながる教育施策がどのように予算措置されていったのかについて、書いていきます。
平成24年度概算要求
平成24年度予算の概算要求組替え基準について
平成24年度概算要求は、平成23年度同様、
「中期財政フレーム」を前提に、ムダづかいの根絶や不要不急な事務事業の徹底的な見直しを通じ歳出全般にわたる改革に全力を挙げ、それにより確保された財源を用いて必要性や効果のより高い政策に重点配分するといった、省庁を超えた大胆な予算の組み替えを行うことを基本とする。
とあります。
そして、国の経済社会の再生に向けた取組みである、日本再生重点化措置を実施しました。
その重点化措置の対象となる分野として、
- 新たなフロンティア及び新成長戦略(科学技術・エネルギー・海洋・宇宙等、インフラ整備を含めた成長基盤の強化)
- 教育(スポーツを含む)・雇用などの人材育成
- 地域活性化(新たな沖縄振興政策を含む)
- 安心・安全社会の実現
を「要望」できると示しました。
教職員定数改善
平成23年3月11日に東日本大震災が起き、東北地方中心に甚大な被害を及ぼしました。
東北地方の学校や原子力発電所、子どもたちにも大きな被害が出て、国全体の経済に大きな打撃を与えました。
そのための、平成23年度補正予算が組まれた他、平成24年度予算にも大きく影響しました。
文部科学省は、「日本再生重点化措置」として、平成23年度予算に組み込まれなかった「小学校2年生の35人以下学級の実現」に4,100人、学習支援が真に必要な児童生徒への支援の充実に2,500人、きめ細やかで質の高い指導の充実に500人の定数改善を要望しました。
また、既存の研修等定数100人を合理化減としました。
情報活用能力向上プロジェクト
小中学校段階における児童生徒の情報活用能力の育成のため、新規の「情報活用能力向上プロジェクト」に1億3,700万円を要望しました。
帰国・外国人児童生徒受入促進事業帰国・外国人児童生徒受入促進事業(学校・家庭・地域の連携協力推進事業に含まれる)
外国語が使える支援員の配置などを、「家庭・学校・地域の連携協力推進事業」の予算に組み込みました。
学校・家庭・地域の連携協力推進事業
スクールカウンセラー等活用事業
スクールソーシャルワーカー活用事業
豊かな体験活動推進事業
学びのイノベーション事業
子どもたち一人一人の能力や特性に応じた学び、子ども同士が教え合い学び合う協同的な学びを創造するために、情報通信技術を活用した教育の可能性を探るための予算です。
デジタル教科書・教材の在り方や指導方法等・教育面での様々な課題について実証研究等を行うために、2億8,200万円を要求しました。
運動部活動地域連携再構築事業
新規の「運動部活動地域連携再構築事業」とは、
生徒の運動部活動への参加機会を確保するために、地域において中体連・高体連や地域スポーツクラブ、競技団体等の関係団体と連携し、運動部活動の新たな形態等についての実践研究を行い、その成果を普及啓発する事業
です。
市区町村等教育委員会に委託する形で、約6,000万円を要求しました。
平成24年度予算
透明性を高めながら予算の組替えを行うためのプロセス
平成23年度に引き続き、「透明性を高めながら予算の組替えを行うためのプロセス」を導入しました。
提言型政策仕分け
政府は、平成24年度も行政刷新会議において、公開で事業仕分けを行いました。
平成24年度は、「事業のムダや非効率の背景にある政策的・制度的な問題にまで掘り下げ、公開の場で議論し提言を行う。」という、「提言型事業仕分け」を行いました。
そして、その提言を反映させることで、歳出の見直しを行いました。
教職員定数改善~加配措置により小学校2年生で35人学級実施~
平成24年度では、文部科学省は、厳しい財政下においても、対前年度比1.7%の予算を獲得することができました。
そして、小学校2年生でも、35人学級を実施することができました。
しかし、その予算は、教員の基礎定数改善ではなく、少人数学級のために加配定数を措置することによって捻出されたものでした。
そして、計画的な教職員定数改善計画は、策定されませんでした。
そのため、平成23年度同様、財務省と文部科学省の間で、両省確認事項が取り交わされました。
費目 | 概算要求 | 予算 | 差 |
---|---|---|---|
小学校2年生の36人以上学級の解消 | +4100人 | +900人 | ▲3,200人 |
中学校における経済的な困難を抱える生徒などへの学習支援 | + 800人 | + 800人 | +-0 |
発達障害等の児童生徒のための通級指導の充実など | + 600人 | + 600人 | +-0 |
日本語指導が必要な愛国人児童生徒等への学習支援 | + 100人 | + 100人 | +-0 |
被災した児童生徒のための学習支援 | +1,000人 | +1,000人(東日本大震災にかかる教育復興支援加配定数措置として) | +-0 |
小学校における専科指導の充実 | + 400人 | + 400人 | +-0 |
地域連携による質の高い教育の実現 | + 100人 | + 100人 | +-0 |
既存の研修等定数の合理化減 | ▲ 100人 | ▲ 100人 | +-0 |
合計 | +7,000人 | +3,800人 | ▲3,200人 |
帰国・外国人児童生徒受入促進事業(学校・家庭・地域の連携協力推進事業に含まれる)
要求通り、「外国語が使える支援員の配置」等で、37地域が予算措置されました。
学校・家庭・地域の連携協力推進事業
学校・家庭・地域の連携協力推進事業は、スクールカウンセラー等すべて、概算要求どおりに予算措置されました。
概算要求 | 予算 | 差 | |
---|---|---|---|
スクールカウンセラー(小学校) | 11,690校 | 11,690校 | +-0 |
スクールカウンセラー(中学校) | 8,252校 | 8,252校 | +-0 |
スクールカウンセラー (緊急支援派遣) | 201校 | 201校 | +-0 |
スクールソーシャルワーカー | 108県市 | 108県市 | +-0 |
学校・家庭・地域の連携による教育支援活動促進事業 | 11,500箇所 | 11,500箇所 | +-0 |
学校運営支援等の推進事業
学校運営支援等の推進事業として、平成23年度の4分の3の約1億5,000万円の予算がつきました。
そして、5年間で公立小中学校の1割(約3000校)に、コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)を拡大する計画も盛り込まれました。
この事業の中には、「コミュニティ・スクールのマネジメント力強化に関する研究(100校)」が含まれていました。
これは、
をするための研究でした。
情報教育の推進等に関する調査研究
要求では、「情報活用能力向上プロジェクト」という名称だったものが、「情報教育の推進等に関する調査研究」と変わりました。
予算も、1億3,700万円を要求していたのに対して、成立した予算では、4,100万円と、大幅に縮小されました。
学びのイノベーション事業
上記の決定事項を受け、教育の情報化を推進するために、「学びのイノベーション事業」として、約2億8,100万円の予算措置がされました。
概算要求より100万円の減でした。
運動部活動地域連携再構築事業
運動部活動地域連携再構築事業として、概算要求6,000万円より2億900万円増の2億6,900万円が措置されました。
地域スポーツとトップスポーツの好循環推進プロジェクト
地域スポーツとトップスポーツの好循環推進プロジェクトには、概算要求より2億4,100万円減の、5億8,200万円が予算措置されました。
まとめ
政府は、平成24年度も平成23年度に引き続き、「透明性を高めながら予算の組替えを行うためのプロセス」を導入しました。日本再生重点化措置、提言型事業仕分け等により、省庁を超えた大胆な予算の組み替えを行いました。
そして、35人以下学級の更なる推進(小学校2年生の36人上学級の解消)のための加配定数措置として900人、学習支援が真に必要な児童生徒への支援やきめ細やかで質の高い指導の充実のための加配定数措置として1,900人、合わせて2,800人の定数改善(震災関連は除く)を実現することができました。
しかしながら、平成23年度に引き続き、計画的な教職員定数改善計画は、策定されませんでした。
また、教員の業務削減(学校における働き方改革)につながる教育施策は、それまで同様少しずつ進められました。
「運動部活動地域連携再構築事業」、「学びのイノベーション事業」、「学校運営支援等の推進事業」、「学校・家庭・地域の連携協力推進事業」などです。
次回「学校における働き方改革は可能か⑰~ 「社会保障・税一体改革関連法」と平成25年度概算要求~」では、平成25年度の「学校における働き方改革」がどのように行われていったのかについて、いつものように、文部科学省の施策を中心に書いていきたいと思います。
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