学校における働き方改革は可能か⑥~平成20年度予算~

学校の職員と子供たち 人材確保法による教員給与の優遇措置
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  1. はじめに
  2. 平成20年概算要求に至るまでの、「『学校教育水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法(人材確保法)』に基づく優遇措置」と、「教職調整額」に関する話し合いの経緯の詳細
    1. 平成19年3月29日中央教育審議会総会(第61回)「今後の教員給与の在り方について(答申)(案)」資料2「教員給与の見直しに係る経緯」
    2. 「教職員給与に関する諸制度等について」平成18年6月8日中央教育委員会「教員の給与の在り方に関するワーキンググループ」第1回資料3
    3. 「教職員給与に関する諸制度等について」平成18年6月8日第3回中央教育委員会資料『人材確保法について』
    4. 「教職調整額に係る検討経緯」(初等中等教育分科会第62回資料3『教職調整額に係る検討経緯について』平成20年10月15日)より
  3. 平成20年度予算
    1. 概算要求と予算の差1⃣
      1. 教職員定数
      2. 外部人材の活用(非常勤講師)
      3. 委託費による学校ボランティア(部活動指導・学校環境整備・登下校における安全指導)/学校支援地域本部(仮称)事業
    2. 概算要求と予算の差2⃣
      1. 基本方針2006に基づく人材確保法による教員給与の優遇措置の縮減分(義務教育等教員特別手当の縮減分)、教職調整額の見直し、メリハリのある給与体系の実現
  4. まとめ

はじめに

前回の記事「学校における働き方改革は可能か⑤~平成20年度概算要求~」では、文部科学省が、平成20年度概算要求で、教職員定数の改善、外部人材の登用、教職調整額のアップなどの施策を提案した経緯を書きました。

今回はまず、その中で、以下の2つについての予算審議の経過を、もう少し詳しく説明します。

  • 義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法(人材確保法)」に基づく優遇措置
  • 教職調整額

その後で、20年度予算の内容を書きたいと思います。

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平成20年概算要求に至るまでの、「『学校教育水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法(人材確保法)』に基づく優遇措置」と、「教職調整額」に関する話し合いの経緯の詳細

平成19年3月29日中央教育審議会総会(第61回)「今後の教員給与の在り方について(答申)(案)」資料2「教員給与の見直しに係る経緯」

平成17年12月24日「行政改革の重要方針」閣議決定で、人材確保法について、「廃止を含めた見直しを行う。」「具体的には、平成18年度中に結論を得て、平成20年春に所要の制度改革を行う。」と決定されました。

平成18年6月2日「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(行革推進法)で、人材確保法について、「廃止を含めた見直しを行う。」「具体的には、平成18年度中に結論を得て、平成20年4月を目途に必要な措置を講ずる。」ことが制定されました。

平成18年6月21日「自民党歳出歳入改革プロジェクトチーム」で、「教員給与の優遇分の取扱いについて」(財務省・文科省)が、以下の内容で了承されました。

教員には、一般行政職に支払われる時間内勤務手当が支給されない代わりに教職調整額が支給されるという特殊事情があることをかんがみ、当面の措置として教員給与月額が一般行政職給与月額を上回る部分について縮減する。

平成18年7月「骨太の方針2006」で、「人材確保法に基づく優遇措置を縮減するとともに、メリハリをつけた給与体系を検討する。」「その結果を退職手当等にも反映させる。」と発表されました。

教員給与の見直しに係る経緯
平成19年3月29日中央教育審議会総会(第61回)資料2「今後の教員給与の在り方について(答申)(案)「教員給与の見直しに係る経緯」より一部抜粋/掲載元/国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)

「教職員給与に関する諸制度等について」平成18年6月8日中央教育委員会「教員の給与の在り方に関するワーキンググループ」第1回資料3

平成18年6月8日「教員の給与の在り方に関するワーキンググループ」の話し合いで、

教員と一般行政職の給与を比較すると、教員給与の「2.76%」分、教員給与の方が多い。

よって、教員の給与の2.76%分を減額する。

という内容が決まりました。

一般行政職と教員の給与比較 
「教職員給与に関する諸制度等について」(平成18年6月8日中央教育委員会「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ」第1回資料3)より一部抜粋/掲載元/国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)

「教職員給与に関する諸制度等について」平成18年6月8日第3回中央教育委員会資料『人材確保法について』

人材確保法について
「教職員給与に関する諸制度等について」(平成18年6月8日中央教育委員会「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ」第1回資料3)より一部抜粋/掲載元/国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)

「教職調整額に係る検討経緯」(初等中等教育分科会第62回資料3『教職調整額に係る検討経緯について』平成20年10月15日)より

概算要求後、「各教員の職務負荷に応じて教職調整額の支給率に差を付けること」の法制的な検討を行いました。

そして、

教職調整額は、おおよそ教員が有する職務と勤務態様の特殊性を全般的に評価して支給するもの

個々の教員の特定の職務による勤務負担を評価して支給される性格のものではない。

そのため、各教員の職務負荷に応じて支給率に差を設けることは困難

という結果となりました。

そして、平成20年度予算編成で、

教職調整額の見直しについては、教員の勤務の在り方と時間外勤務の評価等の在り方について引き続き全体的に検討を行い、平成21年度以降に実施すること

と決定されました。

教職調整額に係る検討経緯について
「教職調整額に係る検討経緯について」平成20年10月15日初等中等教育分科会(第62回)資料3より一部抜粋/掲載元/国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)
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平成20年度予算

概算要求と予算の差1⃣

教職員定数

内訳概算要求予算
主幹教諭3,669人1,000人▲2,669人
事務の共同実施の事務職員485人0人▲485人
発達障害のある子どもへの指導903人171人▲732人
栄養教諭157人24人▲133人
習熟度別・少人数指導1,907人0人▲1,907人
合計7,121人1,195人▲5,926人
教職員定数の概算要求と予算の差

外部人材の活用(非常勤講師)

内訳概算要求予算
習熟度別・少人数指導(定数措置で要求)29億円7,000人
小学校高学年での専科指導の充実・小1問題・不登校等への対応・退職教員等外部人材活用77億円
特別支援学校のセンター的機能の充実(特別支援教育の推進に関わる予算に含み、定数措置で要求)
外部人材の活用(委託費による非常勤講師配置事業)の概算要求と予算の差

委託費による学校ボランティア(部活動指導・学校環境整備・登下校における安全指導)/学校支援地域本部(仮称)事業

内訳概算要求予算概算要求予算
委託費による学校ボランティア4年で10,000校区、初年度は2,500校区1800ヵ所(全市町村対象)205億円50億円
委託費による学校ボランティアの活用事業の概算要求と予算の差

子どもと向き合う時間の拡充
「平成20年度予算(案)主要事項参考資料」より一部抜粋/参照元/国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP
教員の子どもと向き合う時間の拡充
「平成20年度予算(案)主要事項参考資料」より一部抜粋/参照元/国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)

概算要求と予算の差2⃣

基本方針2006に基づく人材確保法による教員給与の優遇措置の縮減分(義務教育等教員特別手当の縮減分)、教職調整額の見直し、メリハリのある給与体系の実現

概算要求予算
義務教育等教員特別手当▲給与の2.76%分(▲430億円)▲給与の2.76%分(平成21年1月~)(▲19億円)
副校長、主幹教諭、指導教諭の処遇+50億円+11億円
部活動手当の増額
+50億円+13億円
校長、教頭の管理職手当の拡充(非常災害時の緊急業務手当の倍増)↓
修学旅行引率指導業務手当の倍増/
対外運動競技等引率指導業務手当の倍増/
教職調整額の見直し残業代17時間分を支給・
一律支給の見直し
+700億円
現行通り(一律4%)+-0
合計4年計画で+370億円(20年度要求+89億円)+24億円
概算要求と予算の差2⃣
平成20年度教員給与の見直し
「平成20年度予算(案)主要事項参考資料」より一部抜粋/参照元/国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)
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まとめ

【20年度予算成立までの経緯】

平成18年度の「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律(行政改革推進法)」により、教職員定数の削減、教職員給与の引き下げが行われることが決まる。

教員に残業代が出ない替わりに支払われている、4%の「教職調整額」の見直しや、「人材確保法による教員給与の優遇措置(義務教育等教員特別手当)」の縮減が求められる。

文部科学省

教員給与の見直しを行うにあたり、教員勤務実態調査を行う。

教員の勤務の残業時間の多さや、担っている業務の多さが明らかになる。

文部科学省

その問題を解消しようと、教員の残業時間を減らすための施策を考える。

主幹教諭の配置や、事務職員の配置、習熟度別・少人数指導の拡充などにあたる教員の配置などの定数措置や、外部人材の活用(退職教員などを非常勤講師として配置する)、学校事務の外部化(学校支援地域本部事業により、部活動指導、登下校の安全指導、学校の環境整備を地域ボランティアにより行う)、事務の効率化など

文部科学省

「これらの施策を行って、残業時間は、半分の17時間に抑えます。その替わり、17時間分の教職調整額(給与の10%)を予算措置して下さい。」という要求を、政府に対して行う。

【結果】

教職員定数→7,121人増を要求したのに対して、主幹教諭など1,195人増のみ

外部人材の活用(非常勤講師)→単独で77億円の要求に対して、習熟度別・少人数指導講師、特別支援学校のセンター的機能の充実のための講師を含めて、29億円(7,000人)

委託費による学校ボランティア→要求額205億円に対して、50億円

義務教育等教員特別手当→概算要求どおり、給与の▲2.76%分

副校長、主幹教諭、指導教諭の処遇→+50億円の要求に対して、+11億円

部活動手当の増額、校長・教頭の管理職手当の拡充→+50億円の要求に対して、その他の手当と合わせて+13億円

教職調整額の見直し→+700億円の要求に対して+-0(現行通り)

文部科学省は、調査までして、教員の超過勤務や業務の多さを明らかにしました。

そして、超過勤務を解消させるために、教職員定数増や外部人材の活用の施策を打ち出しました。

さらに、それでも、残ってしまう残業時間に見合う教職調整額を要求しました。

しかし、予算折衝の結果、教職員定数や外部人材の活用などは、要求より大幅に少なく予算措置されました。

残業代に当たる教職調整額は、そのままでした。

大幅に増えている残業を減らすための予算措置がわずかなのに、残業代に当たる教職調整額は、以前のまま。

その上、義務教育等教員特別手当は、給与の2.76%分が削減されました。

政府
政府

予算が出せないので、多すぎる業務はわずかしか減らせません。

業務量が多いのに無給の残業を頑張っている教員の方は、すごいですね!

でも、給料は、残業代の出る民間企業や他の地方公務員並みに下げます。

と言われている感じです。

このように、文部科学省がひねり出した、教員の業務削減、残業時間縮減、教員の給与の優位性を保つための方策は、政府の財政政策によって見事に打ち砕かれてしまいました。

その後、これらの問題が、どうなってきたか、次回「学校における働き方改革は可能か⑦~平成21年度概算要求~」以降で書きたいと思います。

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