はじめに
前回の記事「学校における働き方改革は可能か⑭~平成23年度概算要求「元気な日本復活特別枠」と予算の組替えから少人数学級実現へ~」では、平成23年度文部科学省概算要求が、「行政事業レビュー」の点検結果の反映や、「政策評価調書」による各政策に関する評価結果の反映、総予算組替え対象経費の削減、制度改革を伴う大胆な予算の組み替えによる新たな事業への「要望」などの、数多くの手順を踏んで決定されたことを書きました。
今回は、平成23年度予算が成立するまでに、さらに様々な段階を経ていった様子について記述していきます。
いよいよ小学1年生の35人学級が実現することになります。
国民の声
平成22年9月10日~10月14日まで、内閣府ホームページ内「国民の声」にて、「おかしなルールの見直し(国の規制・制度の改革)募集」が行われました。
これは、新成長戦略(平成22年6月18日閣議決定)の実現に必要な、規制・制度の見直しに取り組むため、行政サービスに接している国民から、おかしなルールの見直し(国の規制・制度の改革)につながる提案について広く募集するものです。
そして、その声を、行政刷新会議規制・制度改革に関する分科会で取り上げるほか、各府省に対して回答を要請し、提案及びこれに対する国府省の回答を公表することとしています。
この他にも、「公共サービス改革に関する集中受付」、「行政不服審査法の改正の方向性についての意見募集」などの数々の意見募集を行いました。
平成23年度「元気な日本復活特別枠」要望に対するパブリックコメント(政策コンテスト)
「元気な日本復活特別枠」要望に対するパブリックコメント(政策コンテスト)とは?
平成23年度予算には、9月28日~10月19日まで国民に対して行った、「元気な日本復活特別枠」要望に対するパブリックコメント(政策コンテスト)の結果も反映されました。
政府は、首相官邸ホームページに、各府庁の「元気な日本復活特別枠」要望について、分かりやすく説明を載せ、国民がパブリックコメントを寄せられるようにしました。
国民からのコメント数の多さや各事業に対するコメント内容を、予算配分に反映させる主旨の取り組みでした。
「小学校1・2年生における35人学級の実現」事業に関する文部科学省の説明資料
「元気な日本復活特別枠」要望に対するパブリックコメント(政策コンテスト)の、「小学校1・2年生における35人学級の実現」事業のために、文部科学省が用意した資料には、「新・公立義務教育諸学校教職員定数改善計画(案)(中央教育審議会初等中等教育分科会提言 平成22年7月26日)」というものがあり、学級編成の標準の引き下げや教職員定数の改善について触れています。
その中の、
「公立義務教育諸学校の教職員定数の改善経緯」の表
では、
平成3年以来、教職員定数が増えていないこと(平成22年度は除く)
平成13年から平成17年の第7次改善計画以来、「長期にわたる定数改善計画」が策定されていないこと
が分かります。また、
「公立小中学校の学級編成の標準の改善経緯」の表
では、
昭和55年~平成3年度の第5次改善計画以来、30年間も「学級編成の標準」が引き下げられていないこと
も分かります。
それらの資料の中から、「少人数学級のよさ」に関する記述を集めて、まとめてみました。
「元気な日本復活特別枠」に対する文部科学省の「要望」に関する公開ヒアリング資料
平成22年11月10日「元気な日本復活特別枠」に対する文部科学省の「要望」に関する公開ヒアリング資料が示されました。
「教育予算」の表では、日本は諸外国に比べ、「GDPに占める公財政教育支出」の割合が低いことが分かります。
「教育予算に対する人件費」の表では、文部科学省で、「教育予算に対する人件費の割合」が「教育予算以外に占める人件費の割合」と比較して、高いことが分かります。
公開ヒアリングの結果
公開ヒアリングの際の議事録が見当たりませんでしたので、ヒアリング後の文部科学大臣の記者会見の記録から、11月10日の文部科学省公開ヒアリングの様子を推察し、公開ヒアリングで出た少人数学級推進に対する批判的な意見と少人数学級を推進することに対する文部科学大臣の考えをまとめてみました。
「元気な日本復活特別枠」要望に対するパブリックコメント(政策コンテスト)の結果の平成23年度予算への反映
平成23年度「元気な日本復活特別枠」要望に対するパブリックコメント(政策コンテスト)の結果は、概算要求の見直しに反映されました。
「政策コンテストの結果について」の資料によると、文部科学省へのパブリックコメントで、最も多かったのは、「『強い人材』育成のための大学の機能強化イニシアティブ」事業で、約7万件でした。
「小学校1・2年生における35人学級の実現」事業は、パブリックコメント件数が第3位で、約4万件でした。
「査定率」というのは、平成23年度要望額に対する、平成23年度予算額(案)の割合です。
この資料だけ見ると、パブリックコメント順位4位で、評価Cの「成長を牽引する若手研究人材の総合育成・支援イニシアティブ」事業の査定率が170.8%であるのが何故なのか、疑問に思いますが、きっと何か理由があるのでしょう。
大学の先生や学生は、パブリックコメントのような政府の政策についての知識も得やすく、パソコンなどで、コメントがしやすい環境にあることが、結果に少なからず関係しているのでは?と考えるのは、私だけでしょうか。
現在の時代でしたら、スマホの普及で誰でも簡単にコメントを送ることができる環境になっているので、もしかしたら、今パブリックコメントを行うと、この当時とは結果がだいぶ違ってくるかもしれません。
しかしながら、政府が「質の高い教育による厚い人材層」を目指し、各府省からの「要望」の選定内容として、「人材育成」を重視することを掲げていたので、それらに合致する結果といえます。
平成23年度予算案(平成23年3月29日成立)
義務教育費国庫負担金
平成21年度文部科学省予算は過去30年間で最高の伸び率で、前年度比3,109億円の増となりました。
教職員定数についても、7年ぶりの純増で、前年度比4,200人増でした。
そして、平成23年度も、「質の高い教育によって厚い人材層を形成する」という政府の目標を反映し、教職員定数について、大幅な改善がありました。
それは、
小学校1年生の35人以下学級の実現に必要な4,000人の教職員定数を措置するため、純増300人を含む2,300人の定数改善を行う。
※すでに地方自治体において少人数学級に使われている加配定数1,700人分を活用
というものでした。
この定数4,000人の中には、「35人以下学級の実施に伴う教職員配置の充実」として、
の合計230人も含まれました。
さらに、
少人数指導や通級指導などを実施するための加配定数は引き続き維持
というもので、学校現場の実情に配慮された措置でした。
しかし、概算要求で希望していた、
30 年ぶりに40人学級を見直し、10年振りの新たな教職員定数改善計画(平成23年度から30年度までの8ヵ年計画)を策定し、少人数学級(35・30人学級)の推進等を行う
平成26年度から30年度までの5ヵ年計画で、理科の専科教育や生徒指導(進路指導)担当教員等の教職員の配置を改善する
の二つの計画は、実現しませんでした。
これらについては、「平成23年度義務教育費国庫負担金制度について 国家戦略担当・財務・文部科学3大臣合意(平成22年12月22日)」で、
平成24年度以降の教職員定数の改善については、学校教育を取り巻く状況や国・地方の財政状況等を勘案しつつ、引き続き、来年度以降の予算編成において検討する。
ことになりました。
また、教職員の給与に関しては、
人事院勧告の反映(対前年度比▲215億円)に加え、地方民間給与水準に準拠した給与削減(対前年度比▲13億円)等を実施
とあり、平成20年度から行われた、「基本方針2006による教員給与の縮減分(2.76%)の減」(人材確保法による優遇措置である「義務教育等教員特別手当」を、民間給与水準に準拠させること)の、更なる引き下げがあったと思われます。
教員の業務削減に関係する事業に係る予算について
「学校・家庭・地域の連携による教育支援活動促進事業」、「学校運営支援等の推進事業」は、減額はされましたが、予算を措置されました。
「元気な日本スポーツ立国プロジェクト」、「学びのイノベーション事業」も、減額はされましたが、予算を措置されました。
「『新しい公共』型学校創造事業」は、独立した事業としての予算は措置されませんでしたが、「社会教育による地域の教育力向上プロジェクト」に組み込まれました。
事業として予算措置されなかったもの
平成22年6月4日に、政府により、「新しい公共」宣言が公表されました。
「新しい公共」は、鳩山政権で打ち出された考え方で、人々の支え合いと活気のある社会をつくることに向けたさまざまな当事者の自発的な協同の場のことです。
その考え方の下、発案された『「新しい公共」型学校創造事業』は、概算要求には組み込まれていましたが、その後の評価会議による評価や、政策コンテストによる評価の結果、単独の事業としては、予算措置されませんでした。
その代わり「社会教育による地域の教育力強化プロジェクト」内に、その内容が組み込まれることになりました。
まとめ
「『元気な日本復活特別枠』要望に対するパブリックコメント(政策コンテスト)」を経て、ようやく平成23年度予算が成立し、小学校1年生での35人学級が実現しました。
厳しい財政状況を受けて、小学校2年生の35人学級は叶わず、8ヵ年計画も見送りとなりました。
しかし、教職員定数の基礎定数を300人増加させ、自然減に伴う教職員定数2,000人分を削減することをせず、2,300人を改善したことと、さらに加配定数1,700人分を活用することにより、合わせて4,000人の教職員を定数で措置することで、少人数学級が30年ぶりに進められたことには大きな意義があります。
次回「学校における働き方改革は可能か⑯~平成24年度小学校2年生での少人数学級の実現、部活動外部化及び地域による支援、ICT化への歩み~」では、平成24年度以降に見送られた他学年での少人数学級やその他の教職員配置の計画的な改善、また、減額されつつも、実行することになった、「学校・家庭・地域の連携による教育支援活動促進事業」、「学校運営支援等の推進事業」、「元気な日本スポーツ立国プロジェクト」、「学びのイノベーション事業」等の施策がどのようになっていくのか、説明していきたいと思います。
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