はじめに
前回の記事「学校における働き方改革は可能か⑤~平成20年度概算要求~」では、文部科学省が、平成20年度概算要求で、教職員定数の改善、外部人材の登用、教職調整額のアップなどの施策を提案した経緯を書きました。
今回はまず、その中で、以下の2つについての予算審議の経過を、もう少し詳しく説明します。
その後で、20年度予算の内容を書きたいと思います。
平成20年概算要求に至るまでの、「『学校教育水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法(人材確保法)』に基づく優遇措置」と、「教職調整額」に関する話し合いの経緯の詳細
平成19年3月29日中央教育審議会総会(第61回)「今後の教員給与の在り方について(答申)(案)」資料2「教員給与の見直しに係る経緯」
平成17年12月24日「行政改革の重要方針」閣議決定で、人材確保法について、「廃止を含めた見直しを行う。」「具体的には、平成18年度中に結論を得て、平成20年春に所要の制度改革を行う。」と決定されました。
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平成18年6月2日「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(行革推進法)で、人材確保法について、「廃止を含めた見直しを行う。」「具体的には、平成18年度中に結論を得て、平成20年4月を目途に必要な措置を講ずる。」ことが制定されました。
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平成18年6月21日「自民党歳出歳入改革プロジェクトチーム」で、「教員給与の優遇分の取扱いについて」(財務省・文科省)が、以下の内容で了承されました。
教員には、一般行政職に支払われる時間内勤務手当が支給されない代わりに教職調整額が支給されるという特殊事情があることをかんがみ、当面の措置として教員給与月額が一般行政職給与月額を上回る部分について縮減する。
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平成18年7月「骨太の方針2006」で、「人材確保法に基づく優遇措置を縮減するとともに、メリハリをつけた給与体系を検討する。」「その結果を退職手当等にも反映させる。」と発表されました。
「教職員給与に関する諸制度等について」平成18年6月8日中央教育委員会「教員の給与の在り方に関するワーキンググループ」第1回資料3
平成18年6月8日「教員の給与の在り方に関するワーキンググループ」の話し合いで、
教員と一般行政職の給与を比較すると、教員給与の「2.76%」分、教員給与の方が多い。
よって、教員の給与の2.76%分を減額する。
という内容が決まりました。
「教職員給与に関する諸制度等について」平成18年6月8日第3回中央教育委員会資料『人材確保法について』
「教職調整額に係る検討経緯」(初等中等教育分科会第62回資料3『教職調整額に係る検討経緯について』平成20年10月15日)より
概算要求後、「各教員の職務負荷に応じて教職調整額の支給率に差を付けること」の法制的な検討を行いました。
そして、
教職調整額は、おおよそ教員が有する職務と勤務態様の特殊性を全般的に評価して支給するもの
個々の教員の特定の職務による勤務負担を評価して支給される性格のものではない。
そのため、各教員の職務負荷に応じて支給率に差を設けることは困難
という結果となりました。
そして、平成20年度予算編成で、
教職調整額の見直しについては、教員の勤務の在り方と時間外勤務の評価等の在り方について引き続き全体的に検討を行い、平成21年度以降に実施すること
と決定されました。
平成20年度予算
概算要求と予算の差1⃣
教職員定数
内訳 | 概算要求 | 予算 | 差 |
---|---|---|---|
主幹教諭 | 3,669人 | 1,000人 | ▲2,669人 |
事務の共同実施の事務職員 | 485人 | 0人 | ▲485人 |
発達障害のある子どもへの指導 | 903人 | 171人 | ▲732人 |
栄養教諭 | 157人 | 24人 | ▲133人 |
習熟度別・少人数指導 | 1,907人 | 0人 | ▲1,907人 |
合計 | 7,121人 | 1,195人 | ▲5,926人 |
外部人材の活用(非常勤講師)
内訳 | 概算要求 | 予算 |
---|---|---|
習熟度別・少人数指導 | (定数措置で要求) | 29億円7,000人 |
小学校高学年での専科指導の充実・小1問題・不登校等への対応・退職教員等外部人材活用 | 77億円 | ↓ |
特別支援学校のセンター的機能の充実 | (特別支援教育の推進に関わる予算に含み、定数措置で要求) | ↓ |
委託費による学校ボランティア(部活動指導・学校環境整備・登下校における安全指導)/学校支援地域本部(仮称)事業
内訳 | 概算要求 | 予算 | 概算要求 | 予算 |
---|---|---|---|---|
委託費による学校ボランティア | 4年で10,000校区、初年度は2,500校区 | 1800ヵ所(全市町村対象) | 205億円 | 50億円 |
概算要求と予算の差2⃣
基本方針2006に基づく人材確保法による教員給与の優遇措置の縮減分(義務教育等教員特別手当の縮減分)、教職調整額の見直し、メリハリのある給与体系の実現
概算要求 | 予算 | |
---|---|---|
義務教育等教員特別手当 | ▲給与の2.76%分(▲430億円) | ▲給与の2.76%分(平成21年1月~)(▲19億円) |
副校長、主幹教諭、指導教諭の処遇 | +50億円 | +11億円 |
部活動手当の増額 | +50億円 | +13億円 |
校長、教頭の管理職手当の拡充 | ↓ | (非常災害時の緊急業務手当の倍増)↓ |
修学旅行引率指導業務手当の倍増 | / | ↓ |
対外運動競技等引率指導業務手当の倍増 | / | ↓ |
教職調整額の見直し | 残業代17時間分を支給・ 一律支給の見直し +700億円 | 現行通り(一律4%)+-0 |
合計 | 4年計画で+370億円(20年度要求+89億円) | +24億円 |
まとめ
【20年度予算成立までの経緯】
平成18年度の「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律(行政改革推進法)」により、教職員定数の削減、教職員給与の引き下げが行われることが決まる。
↓
教員に残業代が出ない替わりに支払われている、4%の「教職調整額」の見直しや、「人材確保法による教員給与の優遇措置(義務教育等教員特別手当)」の縮減が求められる。
↓
教員給与の見直しを行うにあたり、教員勤務実態調査を行う。
↓
教員の勤務の残業時間の多さや、担っている業務の多さが明らかになる。
↓
その問題を解消しようと、教員の残業時間を減らすための施策を考える。
主幹教諭の配置や、事務職員の配置、習熟度別・少人数指導の拡充などにあたる教員の配置などの定数措置や、外部人材の活用(退職教員などを非常勤講師として配置する)、学校事務の外部化(学校支援地域本部事業により、部活動指導、登下校の安全指導、学校の環境整備を地域ボランティアにより行う)、事務の効率化など
↓
「これらの施策を行って、残業時間は、半分の17時間に抑えます。その替わり、17時間分の教職調整額(給与の10%)を予算措置して下さい。」という要求を、政府に対して行う。
↓
【結果】
教職員定数→7,121人増を要求したのに対して、主幹教諭など1,195人増のみ
外部人材の活用(非常勤講師)→単独で77億円の要求に対して、習熟度別・少人数指導講師、特別支援学校のセンター的機能の充実のための講師を含めて、29億円(7,000人)
委託費による学校ボランティア→要求額205億円に対して、50億円
義務教育等教員特別手当→概算要求どおり、給与の▲2.76%分
副校長、主幹教諭、指導教諭の処遇→+50億円の要求に対して、+11億円
部活動手当の増額、校長・教頭の管理職手当の拡充→+50億円の要求に対して、その他の手当と合わせて+13億円
教職調整額の見直し→+700億円の要求に対して+-0(現行通り)
文部科学省は、調査までして、教員の超過勤務や業務の多さを明らかにしました。
そして、超過勤務を解消させるために、教職員定数増や外部人材の活用の施策を打ち出しました。
さらに、それでも、残ってしまう残業時間に見合う教職調整額を要求しました。
しかし、予算折衝の結果、教職員定数や外部人材の活用などは、要求より大幅に少なく予算措置されました。
残業代に当たる教職調整額は、そのままでした。
大幅に増えている残業を減らすための予算措置がわずかなのに、残業代に当たる教職調整額は、以前のまま。
その上、義務教育等教員特別手当は、給与の2.76%分が削減されました。
予算が出せないので、多すぎる業務はわずかしか減らせません。
業務量が多いのに無給の残業を頑張っている教員の方は、すごいですね!
でも、給料は、残業代の出る民間企業や他の地方公務員並みに下げます。
と言われている感じです。
このように、文部科学省がひねり出した、教員の業務削減、残業時間縮減、教員の給与の優位性を保つための方策は、政府の財政政策によって見事に打ち砕かれてしまいました。
その後、これらの問題が、どうなってきたか、次回「学校における働き方改革は可能か⑦~平成21年度概算要求~」以降で書きたいと思います。
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