はじめに
文部科学省の平成20年度概算要求は、平成18年の「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」の影響下にありました。教職員定数の純減、教職員給与の引き下げを求められたからです。
前々回の記事「学校における働き方改革は可能か③~教職員に掛かる人件費の削減~」で、平成18年6月2日に、「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」が、公布・施行され、
公立学校の教職員(中略)その他の職員の総数について、児童生徒の減少に見合う数を上回る数の純減をさせるための必要な措置を講ずるものとする。
学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法の廃止を含めた見直しその他の公立学校の教職員の給与の在り方に関する検討を行い、平成18年度中に結論を得て、平成20年4月を目途に必要な措置を講ずるものとする。
の2つが決定されたことを書きました。
そして、前回の記事「学校における働き方改革は可能か④~平成18年度「教員勤務実態調査」/平成19年3月「今後の教員給与の在り方について(答申)」~」で、平成19年3月に文部科学省が、「今後の教員給与の在り方について(答申)」で、教員の給与が削減されることになった代償として、教員の職務の見直しや学校事務の軽減・効率化又は、事務体制の強化を図ることにより、教員の仕事量を減らすことを、掲げたことに触れました。
今回は、平成20年度予算が、その方針が貫かれたものになったかどうかについて書きたいと思います。
平成20年度概算要求
平成20年度概算要求では、「社会総がかりでの教育再生」の実現のために、
の2つを行うとしています。
「子供と向き合う時間の拡充」
A 定数措置
「主幹教諭の配置」、「事務職員の配置」、「特別支援教育の充実」、「栄養教諭の配置」、「習熟度別・少人数指導の拡充」として、3年間かけて、計21,362人の職員を増やす計画です。
B 予算による外部人材の活用
3年間かけて、「小学校高学年での専科の非常勤講師」、「小1問題・不登校等対応の非常勤講師」を配置する計画です。
C 予算による事務の外部化
4年間かけて、「学校支援地域本部(仮称)」を、全中学校区(計10,000か所)に配置し、「部活動指導」「学校環境整備」「登下校の安全指導等」の事務の外部化を目指す計画です。
の3つの施策を提案しています。
そして、A、B、Cと事務の効率化等により、
残業時間(月平均34時間)を、半分に抑制する
としています。
文部科学省は、なんと法律で、「教職員定数の純減」が決定されているにもかからず、教職員定数を増やすための予算措置を提示したのです。
更に、「外部人材の活用」という、裏技まで出してきたのです。
外部人材は、「教職員定数」に含まれないので、「教職員定数の純減」という法律にかかわらず、予算を申請できるからです。
そして、何よりも、これらにより、教員の残業時間を減らすことができ、「教師が子どもと向き合う時間の拡充」ができる、というわけです。
教員の適切な処遇(4年計画)
前述したように、教員の給与については、平成18年6月2日の、「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」で、
政府は、学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法の廃止を含めた見直しその他の公立学校の教職員の給与の在り方に関する検討を行う。
と定められていました。
しかし、それにもかかわらず、文部科学省は、
平成18年の教員実態調査で、教師の平均残業時間は、月平均34時間という結果だった。
でも、今回の施策で教師の平均残業時間は、月平均17時間に減るはずだ。
そして、現在の4%の教職調整額は、昭和41年当時の教師の平均残業時間(8時間)に基づいている。
よって、月平均17時間分の残業代として、現在4%の調整額を10%に引き上げてほしい。(4年間で約12%に増額)
と、教職調整額の引き上げを要求しました。
しかし、文部科学省は、その替わりに、
- 教職調整額の一律支給を見直し、教員の職務負荷に応じて支給率に差を設ける。
- 教職調整額の、期末、勤勉手当や退職手当等への跳ね返り(期末、勤勉手当や退職手当の支給額を算出する場合に、教職調整額を含めて計算すること)を廃止する。
- 給与を2.76%縮減する。
ということも提案しました。
基本方針2006による教員給与の縮減分(2.76%)の減
‥‥▲430億円
メリハリのある教員給与
副校長、主幹教諭、指導教諭の処遇
・主幹教諭、指導教諭の新たな級の創設 ‥‥50億円
部活動手当等の抜本的な拡充
・部活動手当(4時間以上1,200円)の倍増
・校長・教頭の管理職手当の拡充 ‥‥50億円
教職調整額の見直し
・残業時間(月平均34時間)を17時間に抑制→現在の支給額との差額を措置
・一律支給の見直し ‥‥700億円
※「基本方針2006による教員給与の縮減分(2.76%)の減」について
平成18年7月7日、政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」を策定しました。
その中の「文教①ア」で、「地方公務員の給与構造改革や地方における民間給与水準への準拠を徹底させる」とあります。
地方公務員の給与水準に準拠させるために、教員の給与を、2.76%下げるということです。
※教職調整額の見直しについて
※「教職調整額の見直し」については、これらの資料に詳しく書かれています。
まとめ
平成20年度概算要求では、何とか政府の方針に対抗して、教員の処遇を改善しよう、とする文部科学省の意図がうかがえます。
教員定数の改善、外部人材の活用、教職調整額の増額など、政府の主張の隙を突いて、攻略方法を練り出している感じです。
「頭脳戦」とはこのことか、と思います。
次回「学校における働き方改革は可能か⑥~平成20年度予算~」では、政府との折衝、話し合いの末、平成20年度の予算では「教師が子どもと向き合う時間の拡充」のための施策にかかる予算の確保、人材確保法に基づく優遇措置の見直しや給特法の見直しが、どのような結果となったのかについて、詳しく書きたいと思います。
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