- はじめに
- 国家公務員法改正案(国家公務員法等の一部を改正する法律案)とは?
- 地方公務員法改正案(地方公務員法の一部を改正する法律)とは?
- 地方公務員の定年引上げの実施に向けた疑問に対する総務省の回答(「定年引上げの実施に向けた質疑応答(第4版/令和4年2月15日)」より)
- まとめ
はじめに
「定年前再任用短時間勤務制」とは、令和5年4月1日から始まる制度です。
60歳以降、定年退職年齢に達するまでの期間において、現行の「再任用短時間勤務制」のかわりになるものです。
一方、定年退職年齢に達した後65歳までは、現行の「再任用短時間勤務制」は、「暫定再任用短時間勤務制」と名称が変わります。
「定年前再任用短時間勤務制」と「再任用短時間勤務制」と「暫定再任用短時間勤務制」の違いについては、「地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか④~公務員は定年退職後は必ず再任用されるの?~」で詳しく説明していますので、ご覧下さい。
令和3年6月4日、「国家公務員法等の一部を改正する法律(国家公務員法改正案)」と、「地方公務員法の一部を改正する法律(地方公務員法改正案)」が成立しました。
令和5年4月1日から施行されます。
これにより、国家公務員と地方公務員(公立学校の教職員を含む)の定年を段階的に引き上げることになります。(改正案が成立した経緯については、「公立学校教員・公務員の定年延長により2年に1度、教員採用試験と公務員試験の受験倍率が上がる!?(令和3年6月25日修正版)」でも触れています。是非お読み下さい。)
この決定により、令和5年度に60歳を迎える人から、定年が段階的に延長され、60歳以後の勤務条件が60歳前とは変わることになります。
今回の記事では、まず、国家公務員法改正案についておさらいしたあと、地方公務員法改正案について説明します。
これらにより、
- 定年を段階的に引き上げる方法
- 定年延長に伴って制定された新たな制度
- 役職定年制の特例
- 給与
- 退職金
などについて知ることができます。
その後、「地方公務員の定年引上げの実施に向けた疑問に対する総務省の回答」(「定年引上げの実施に向けた質疑応答(第4版/令4年2月15日)」)の内容を紹介します。
この「地方公務員の定年引上げの実施に向けた疑問に対する総務省の回答」では、
- 各地方公共団体が実施すべき事項
- 今回初めて導入される「定年前再任用短時間勤務制」
について詳しく分かる部分を取り上げていきたいと思います。
国家公務員法改正案(国家公務員法等の一部を改正する法律案)とは?
「国家公務員法改正(国家公務員法等の一部を改正する法律)」理由
国家公務員法改正案(国家公務員法等の一部を改正する法律案)の内容
定年の段階的引上げ
現行60歳の定年を段階的に引上げて65歳とする。
ただし、職務と責任の特殊性・欠員補充の困難性を有する医師等については、66歳から70歳までの間で人事院規則により定年を定める。
※定年の引上げに併せて、現行の60歳定年退職者の再任用制度は廃止(定年の段階的な引上げ期間中は、定年から65歳までの間の経過措置として現行と同様の制度を存置)
定年年齢の段階的な引上げ方法(生まれた年度別定年年齢)
現行/令和3年度~4年度に60歳になる人(昭和36年度、昭和37年度生まれ)
60歳
令和5年度に60歳になる人(昭和38年度生まれ)
61歳
令和6年度に60歳になる人(昭和39年度生まれ)
62歳
令和7年度に60歳になる人(昭和40年度生まれ)
63歳
令和8年度に60歳になる人(昭和41年度生まれ)
64歳
令和9年度に60歳になる人(昭和42年度生まれ以降)
65歳
役職定年制(管理監督職勤務上限年齢制)の導入
(※)指定職とは……一般職の公務員の職種による区分の一。国家公務員では、事務次官、外局の長、試験所・研究所・病院・療養所の長、その他の官職を占める職員。地方公務員では東京都の局長などがこれに該当する。
(※※)俸給の特別調整額とは……管理又は監督の地位にある職員(以下「管理職」という)について、その特殊性に基づいて支給される手当。
60歳に達した職員の給与
人事院の「意見の申出」に基づき、当分の間、職員の俸給月額は、職員が60歳に達した日後の最初の4月1日(特定日)以降、その者に適用される俸給表の職務の級及び号俸に応じた額に7割を乗じて得た額とする。
役職定年により降任、降給を伴う異動をした職員の俸給月額は、異動前の俸給月額の7割水準とする。
60歳に達した職員の給与に関する検討条項
高齢期における多様な職業生活設計の支援
60歳以後定年前に退職した者の退職手当
60歳に達した日以降に、定年前の退職を選択した職員が不利にならないよう、当分の間、「定年」を理由とする退職と同様に退職手当を算定する。
定年前再任用短時間勤務制の導入
60歳に達した日以降定年前に退職した職員を、本人の希望により、短時間勤務の官職に採用(任期は65歳まで)することができる制度を設ける。
その他
情報提供・意思確認制度
前掲の資料の「国家公務員法等の一部を改正する法律案の概要」には、記載がありませんが、「地方公務員法改正案」同様に、国家公務員改正案にも、「情報提供・意思確認制度」の記載があります。【国家公務員法附則第9条】
役職定年制の特例(国家公務員法第81条の2~第81条の5)
管理監督職勤務上限年齢による降任等の特例(特例任用)
任命権者は、管理監督職を占める職員について、管理監督職勤務上限年齢による降任等(他の官職への異動)により、以下の1~3のいずれかに該当するため、公務の運営に著しい支障が生ずる場合に限り、当該職員を引き続き管理監督職として勤務させることができます。
- 職員の職務の遂行上の特別の事情がある場合
- 職員の職務の特殊性によりそのポストの欠員の補充が困難となる場合
- 当該管理監督職が特定の管理監督職グループ(※)に属しており、当該グループ内の欠員の補充が困難となる場合 (※)職務の内容が相互に類似する複数の管理監督職(指定職を除く。)で、これらの欠員を容易に補充することができない年齢別構成その他の特別の事情がある管理監督職として人事院規則で定めるもの
特例任用の再延長
任命権者は、上記要件が継続している場合には、人事院の承認を得て、1年以内の期間内で再延長ができます。(1と2の要件の場合は最長3年、3の要件の場合は定年退職日まで(最長5年))
地方公務員法改正案(地方公務員法の一部を改正する法律)とは?
「地方公務員法改正」(地方公務員法の一部を改正する法律)理由
地方公務員法改正案(地方公務員法の一部を改正する法律)の内容
役職定年制(管理監督職勤務上限年齢制)の導入
組織の新陳代謝を確保し、組織活力を維持するため、役職定年制(管理監督職勤務上限年齢制)を導入する。
- 役職定年の対象範囲及び役職定年年齢は、国家公務員との権衝を考慮した上で、条例で定める。
定年前再任用短時間勤務制の導入
60歳に達した日以降定年前に退職した職員について、本人の希望により、短時間勤務の職に採用(任期は65歳まで)することができる制度を導入する。
情報提供・意思確認制度の新設
任命権者は、当分の間、職員が60歳に達する日の前年度に、60歳以後の任用、給与、退職手当に関する情報を提供するものとし、職員の60歳以後の勤務の意思を確認するよう努めるものとする。
その他
給与に関する措置
国家公務員の給与及び退職手当について以下の措置が講じられることを踏まえ、地方公務員についても、均衡の原則(地方公務員法第24条)に基づき、条例において必要な措置を講ずるよう要請する。
- 当分の間、60歳を超える職員の給料月額は、60歳前の7割水準に設定する。
- 60歳に達した日以後に、定年前の退職を選択した職員が不利にならないよう、当分の間、「定年」を理由とする退職と同様に退職手当を算定する。
地方公務員の定年引上げの実施に向けた疑問に対する総務省の回答(「定年引上げの実施に向けた質疑応答(第4版/令和4年2月15日)」より)
定年の引上げとこれに伴う諸制度の施行に向け各地方公共団体が実施すべき事項
定年の引き上げとこれに伴う諸制度の施行に向け、各地方公共団体はどのようなことを実施する必要があるのですか?
1.条例・規則に規程すべき内容を確定するため、制度に関する以下のような検討
2.以上の検討内容を条文化し、条例、人事委員会規則、規則等の改正
3.そのほか、制度運用に受けた準備
4.議案を上程する時期
定年の引上げ時期
定年をいつから段階的に引上げ、いつから65歳とすればよいのですか?
地方公務員の定年の段階的な引上げ時期
(※)地方公務員の定年の段階的な引上げ表
※「地方公務員の定年の段階的な引上げ表」の説明
暫定再任用職員
公務員年金支給開始年齢
定年前再任用短時間勤務制
定年前再任用短時間勤務制は必ず導入しなければならなのですか?
定年前再任用短時間勤務制を導入する理由
60歳に達する前に退職した元常勤職員の定年前再任用短時間勤務
60歳に達する前に退職した元常勤職員は、定年前再任用短時間勤務制の対象となりますか?
60歳以降に退職し、一定の期間をおいた者の、定年前再任用短時間勤務
60歳以降に退職し、一定の期間をおいた後、定年前再任用短時間勤務職員として勤務することはできますか?
60歳以降に退職した職員を、一定の期間をおいた後に採用するケースとしては、
- 退職前に定年前再任用の手続きを行う場合において、退職日の翌日以降、一定の期間を置いて採用を行う場合、
- 退職前に定年前再任用短時間勤務職員として採用されることを希望せず一旦退職したが、その後の状況の変化等に伴い、定年前再任用短時間勤務職員としての採用を希望した場合に、退職後一定の期間が経過している当該元職員を定年前再任用短時間勤務職員として採用する場合
が考えられるが、いずれについても任命権者の判断により行うことが可能である。
定年前再任用短時間勤務職員の任期の終期
定年前再任用短時間勤務職員の任期の終期を定年退職日相当日以外の日とすることはできますか?
定年前再任用短時間勤務職員の勤務時間
定年前再任用短時間勤務職員の勤務時間等に制限はありますか?
※1 休憩時間を除き、1週間当たりの勤務時間は15時間30分から31時間までの範囲内で、各省庁の長が定めること
※2 週休日及び勤務時間の割振りについては、日曜日及び土曜日に加えて、月曜日から金曜日までの5日間に週休日を設けることができ、1日につき7時間45分を超えない範囲で勤務時間の割振りを行うこと。
定年前再任用短時間勤務職員の選考
定年前再任用短時間勤務職員の選考
定年前再任用短時間勤務職員としての勤務を希望する職員について、希望者全員を採用しなければならないのですか?
定年前再任用短時間勤務職員の採用日
定年前再任用短時間勤務職員の採用日を、一律4月1日とすることは可能ですか?
定年前再任用短時間勤務制と他の制度との関係
定年前再任用短時間勤務職員としての任期を終えた者を暫定再任用のフルタイム勤務職員として採用することは可能ですか?
定年前再任用短時間勤務制と高齢者部分休業制度との違い
定年前再任用短時間勤務制と高齢者部分休業制度の違いは何ですか?
- 高齢者部分休業制度は、常勤職員の身分のまま、原則として、その勤務時間の半分を上限として休業することができる制度であり、勤務しない時間について給与が減額される制度である一方、
- 定年前再任用短時間勤務制は、いったん常勤職員を退職した上で、非常勤職員に再任用されるため、短時間勤務の再任用職員の給与が支給される。
定年前再任用短時間勤務制 | 高齢者部分休業制度 | |
---|---|---|
職員の身分 | 非常勤職員(短時間勤務の職) | 任期の定めのない常勤職員 |
職の異動 (身分の変動) | 退職後、短時間勤務の職に 再任用 | なし |
勤務時間 | 週15時間30分から31時間の 範囲内 | 勤務時間の半分を上限として 休業できる |
定員定数上の 取扱 | 定員外 (フルタイム勤務職員と区別して 別途管理) | 定員内 |
制度利用可能 年齢 | 60歳以降 | 高年齢として条例で定める年齢 (※)以降 |
給与 | 国家公務員の再任用職員の給与を 踏まえた取扱い (級ごとに単一の給料月額を設定し 勤務時間に応じて算定) | 給料月額7割措置適用後の給与 につき、勤務しない時間分を 減額 |
諸手当 | 国家公務員の再任用職員の給与を 踏まえた取扱い (一部手当(扶養手当、住居手当等) は支給されない) | 常勤職員と同様 |
退職手当 | 常勤職員としての退職の際に それまでの勤続分の額を給付 (短時間勤務職員としての勤 続分は算定の対象とならない) | 退職時に給付(部分休業期間は 在職期間から二分の一を除算 して算定。) |
その他 | フルタイム勤務への復職は不可 (暫定再任用の対象職員であれば、 暫定再任用フルタイム 職員として採用可能) | フルタイム勤務への復帰が可能 |
※平成16年の制度導入時は「定年前5年」(概ね55歳)と設定していたが、平成26年度から年齢の枠付けを撤廃。
まとめ
今回の記事では、令和3年6月4日に「国家公務員法等の一部を改正する法律(国家公務員法改正案)」と「地方公務員法の一部を改正する法律(地方公務員法改正案)」が成立し、令和5年4月1日から施行されることで、公務員の60歳以降の勤務条件がどう変わるかについて書きました。
そして、
- 定年を段階的に引き上げる方法
- 定年延長に伴って制定された新たな制度
- 役職定年制の特例
- 給与
- 退職金
などについてお伝えしました。
さらに、
- 各地方公共団体が実施すべき事項
- 今回初めて導入される「定年前再任用短時間勤務制」
について詳しく書きました。
令和5年の施行に向けて、各地方公共団体では、今年度(令和4年度)中に条例や規則を整備します。
公立学校の教職員を含めた地方公務員の皆さんにも、共済組合などから、内容が知らされることになります。
ただし、各地方公共団体によって違いがあり、どのような形でどの程度周知されるかは分かりません。
労働組合などに入っている人は、おそらくそちらから詳しい内容の説明があるでしょう。
しかしながら、令和5年度中に60歳を迎える職員に対しては、「情報提供・意思確認制度」に則って、60歳以降の任用・給与・退職手当に関する情報提供を行った上で、60歳以降の勤務の意思確認が行われなければならないことになっています。
地方公共団体の条例や規則の整備については、国の法律及び他の地方公共団体の条例や規則の内容に準じて行われますから、この記事に書かれている内容と大きく違うということはないでしょう。
私の記事では、今後も、「地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか」について、詳しく書いていきます。
次回は、「地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか②~校長・副校長・教頭は、60歳以降、役職定年により、降格?」です。
是非お読みいただいて、公立学校の教職員を含めた公務員の方は、60歳以降の働き方の選択にお役立て下さい。
一般企業にお勤めの方も、各企業などで60歳以降の雇用条件を整える上で、国家公務員法改正案や地方公務員法改正案を参考にする必要が出てくることが考えられますので、続けて読んで下さいね。
コメント
再任用短時間勤務は、副業できるのですか。
ちゃり様、コメントありがとうございます。
「再任用を希望される皆様へ」(内閣官房内閣人事局)【令和2年度版】8ページ「その他の諸制度」の「兼業」の欄に、「フルタイム勤務、短時間勤務を問わず、定年退職前の職員と同様に兼業規制が適用されます。ただし、短時間勤務職員については、割り振られる勤務時間が短いことなどから、職務の遂行に支障が生ずること等の事情がなければ、フルタイム勤務職員と比べて兼業が許可されやすくなっています。(詳細については、各府省の含む担当にご相談ください。)。」と国家公務員の再任用短時間勤務職員について述べられています。地方公務員についても同様の扱いと考えられます。