はじめに
前回の記事「コロナ禍で少人数学級への移行は可能か~文部科学省はずっと提案し続けている!②~小1の35人学級実現と、小2の35人学級のための教員の加配措置の実現まで~」では、小学校1年生に35人学級が導入されるまでの経緯と、その後の平成24年度の小2の35人学級のための、教員の加配措置までの経緯について説明した。
簡単に説明すると、
平成23年に、小1での35人学級のための教職員数が、基礎定数化し、その後、順番に他の学年も、法律改正により35人学級へと移行するかと思われた。
しかし、実際は、平成24年度の義務教育国庫負担金の小2の35人学級のための予算は、少人数学級編成に使用可能な「指導方法工夫改善加配」が900人増となったのみであった。
という内容であった。
今回は、この後、平成25年度予算成立までの少人数学級に対する文部科学省の取り組みについて、述べていく。
この記事を読んでほしい人
- 現職の教員
- 教育関係者
- 保護者の方
- 教育問題に興味がある人
この記事を読むと分かること
- 少人数学級がどのようにして進められてきたのかの経緯(小2の35人学級のための教職員加配措置の実現から平成25年度予算成立まで)
「公立義務教育諸学校の学級規模及び教職員配置の適正化に関する検討会議」
検討会議の調査の内容
平成24年に、文部科学省が、「公立義務教育諸学校の学級規模及び教職員配置の適正化に関する検討会議」の内容を踏まえ、「少人数学級の推進など計画的な教職員定数の改善について」という文書を出した。
その会議では、各地における少人数学級の取り組みの検証や、学校現場の声から見られる少人数学級の教育効果についての検証がなされた。
また、学習指導要領の教育目標を達成するための、少人数学級の有効性についても検討された。
さらに、今後の教育改革を見越した少人数学級の必要性についても話し合われた。
検討会議の結果
各地における取り組みの検証や学校現場の声から見られる少人数学級の教育効果について、
少人数学級については、学習行動、出欠、不登校の改善について積極的な効果が出ている。
と、記述されており、児童の生活面に関しては、少人数学級の効果が認められる、という結果となった。
しかしながら、少人数学級の、学力の向上に及ぼす影響については、
学習指導面で効果があったという事実を示すデータが数多くある。一方で、学力に影響を与える要因は、家庭・地域の状況等を含め、様々であり、学級規模と教育効果への相関を的確に捉える分析手法の検討も必要との意見もある。
という結果となった。
また、平成20年度の学習指導要領改訂によって生じた少人数学級の必要性について、
新学習指導要領では、特定の教科に限らず、学校の教育活動全体を通じて、観察・実験や論述等の知識・技能を活用する学習活動や言語活動・体験活動を充実。これらを通じ、課題発見・解決能力、コミュニケーション能力等を育成し、すべての教科等でより一層きめ細かい指導を充実させるためには、学級規模そのものの規模を縮小が必要。
と記載されている。
また、次期の学習指導要領の改定の内容を見越して、少人数学級では、
対話、討議などのグループ活動やICTを活用した教育活動など、今後求められる協同的な学びや双方向型の学びなどに対応した授業革新の促進も可能である。
との見解も示している。
子どもと正面から向き合うための新たな教職員定数改善計画案
計画案
さらに、平成25年度は、文部科学省が、予算の概算要求として、「子どもと正面から向き合うための新たな教職員定数改善計画案(H25~H29)」という案を提出した。
「子どもと正面から向き合うための新たな教職員定数改善計画案(H25~H29)」では、5年間をかけて27,800人の教職員定数を増加させることを計画していた。
つまり、1年で3,900人ずつ学級規模適正化定数を増加させることで、5年計画で中学3年生までの35人以下学級を実現する計画であった。
財務省との予算折衝の結果
平成25年度には、文科省は、法改正による小2の35人学級の実現は、基礎定数への振り替えに伴う加配定数の減という課題が生じるとして、法改正ではなく、加配措置によって、36人以上学級の改善を目指す要求を行った。
しかし、残念ながら、平成25年度の、文部科学省の義務教育費国庫負担金等予算については、財務省と折衝の末、以下のように国会で決定された。
- 平成25年は、1,400人の教職員定数改善を行うのみ。
- 文部科学省の5か年にわたる計画案のような、来年度以降の予算の執行に対する計画は含まれない。
平成25年度の文科省の「義務教育費国庫負担金」その他の予算は以下のとおりであった。
1,400人の教職員加配定数の改善を行う一方で、少子化等による児童生徒数の減少を踏まえた教職員定数の合理化で600人を削減し、教職員定数は、800人の増となった。
今後の少人数学級の推進についての取り決め
この時、別添資料として、以下のことが財務省と文部科学省によって取り決められた。
今後の少人数学級の推進については、
習熟度別指導等とあわせ
その効果について平成25年度の全国学力・学習状況調査等の結果等を活用し十分な検証を行いつつ、
教職員の人事管理を含めた教職員定数の在り方全般について検討する。
今後の少子化の進展や、国・地方の財政状況等を勘案し、
教育の質の向上につながる教職員配置の適正化を行うことその他の方策を引き続き検討し、
その結果に基づいて必要な措置を講ずる。
「教育再生実行の基盤となる教職員等指導体制の整備/平成25年度義務教育費国庫負担金等予算案」(文部科学省)より一部抜粋/掲載元国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)
どういうことかというと、少人数学級が実現されるためには、
- 習熟度別指導よりも、少人数学級の方が効果があると証明されることが必要
- 全国学力・学習状況等調査で、少人数学級が優位であることが証明されることが必要
ということである。
また、少人数学級が実現されない場合の理由として、
- 教職員の人事管理(退職する人数や、今後定年延長が実施されていく状況、再任用教師の人数、新卒の教員志望者の人数、育休や療養休暇取得者の人数)等により、少人数学級の実現や、教職員定数の増加という方法をとらなくても、効果的な指導ができる場合もあると考えられる場合=加配教員や学習指導員等で対処する
- 国・地方の財政状況により、少人数学級ができない場合
ということも、考えられるということである。
このように、小学校3年生以上での、少人数学級の実現のために、新たに厳しい条件が課せられる結果になったといえる。
まとめ
以上のように、平成25年から平成29年にかけて、計画的に小中全学年での35人学級の推進を進めるという文部科学省の計画は、財務省との予算折衝及び国会での決議により、白紙の状態になった。
次の記事「コロナ禍で少人数学級への移行は可能か~文部科学省はずっと提案し続けている!④~平成26年度予算成立から平成27年度予算成立まで~」では、平成25年の予算決定以降から平成27年度の予算成立までの、少人数学級実現に対する文部科学省の取り組みについて述べていく。
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