はじめに
前回の記事「小学校教師がやめられない理由を、元教師の私が経験を交えて説明します。」では、小学校教師の仕事のよさ、やりがいについて書きました。
しかし、最近SNS上では、盛んに「教師をやめたい。」「教師の仕事がつらい。」と言うつぶやきを見かけます。
私も、何度も「やめたい。」と思いながら、何とか公立小中学校の正規教員を33年間続けました。
ここでは、前回書いたとおり、他の業種に比べて、待遇や世間体がよいのに、なぜやめたくなってしまうのかについて、私の経験からお伝えします。
まずは、私の独断と偏見で、教師をやめたくなってしまう理由についてランキングしてみました。
ただし、病気や介護などの事情は省きます。
以下、それぞれの項目について、説明していきます。
超多忙
学習指導以外の仕事が多すぎる
今までの記事に書いてきたとおり、学習指導以外の仕事が多すぎて、授業研究や授業の準備にかける時間がほとんどないのが現状です。
学校の働き方改革を掲げて取り組みは始まっていますが、いったいいつになったら、本当に勤務時間内に収まるだけの仕事量になるのやら。
とにかく大幅に職員を増やしてほしいです。
保護者対応の難しさ
子どもの話をきちんと聞いて保護者に正確に伝えるのが難しい
学校でけんかやいじめがあった場合、保護者によっては、「うちの子に限って、そんなことをするはずがない。」と、教師の伝えた内容に不信感をもつ方がみえます。
そもそも低学年の子は、一般に、事情を説明することがうまくできません。
そして、子どもは、時として、学校で教師に言ったことと、家で保護者に言うことを、自分の都合のいいように変えることがあります。
そのせいで、保護者は、「先生はうちの子を信用していない。」「相手の子の肩をもっている。」となってしまう場合があります。
学校で子どもたちから、一生懸命に事情を聞いて、指導しても、そのようなことがあると、本当に嫌になってしまいます。
子どもの気持ちを引き出して、納得させるのが難しい
もちろん、こちらが充分時間をかけて、しっかりと双方から話を聞かなかったせいで、事実と異なる報告を保護者にしてしまったこともあります。
さらに、当事者である子どもが、指導の中で、教師や相手に、本当の気持ちや言いたいことを言えなかったり、教師の指導に納得していなかったりすると、そのような残念な結果になってしまう場合もあります。
保護者の立場に立って、責めないように上手に話すのが難しい
しかし、教師もそのような失敗を何度か繰り返して、対応が上手になっていきます。
どちらにせよ、子どものよくない行動を保護者に伝えるのは、すごく神経を使います。
当然のことながら、どの保護者も、自分の子どもは大事ですし、大部分の方は、子育てを一生懸命頑張ってみえます。
それゆえ、自分の子どもが否定されてしまうような言動をされると、すごく感情的になって対応される方もみえます。
いかに、上手に事実を伝えるかが問われ、技術がいる、大切な仕事です。
子どもを指導する難しさ
発達障害の子を指導するのが難しい
最近は、私の経験では、普通学級にも、3~4名は、発達障害もしくはその疑いのある子がいます。
授業中、じっと座ってられない、突然奇声を発してしまう、課題に取り組めない、他の子にちょっかいをかけてしまう、興味のないことはしない、身の周りの整頓ができない、みんなのペースに合わせられない、勉強に全くついていけないなど、一人一人、特徴は違います。
その子たちが普通学級で過ごすのは、当然のことです。
そのような子たちは、案外人気者で、学級の雰囲気を明るくしてくれる、というような場合も多いです。
しかし、その子たちの行動を、担任がうまく制御できないと、学級が落ち着かない雰囲気になってしまったり、周りの子に迷惑をかけてしまったりすることもあります。
発達障害の子ひとりひとりに合う支援方法や指導方法をするのが難しい
さらに、最近、普通学級に在籍する発達障害のある児童に対する制度が変わりました。
そのような子たちに対しては、担任教師は、保護者と相談しながら、「個別の教育支援計画」と「個別の指導計画」を作り、その子に合った指導をすることが必要になりました。
そのこと自体はよいことです。
しかし、一人の教師が一斉授業の中でできることは限られています。
正直、発達障害の子が学級に何名もいると、それぞれに個別に支援することは、難しいです。
愛情不足からくる問題行動、いじめ、不登校をなくすのが難しい
また、家庭で愛情を受けて育てられていなかったり、虐待を受けてきたと思われる子も学年に数名いる場合があります。
そして、それらの子は、愛情不足からか、暴力的になったり、反抗的になったり、授業妨害をしたり、ものを壊したり、というような問題行動を多発することもあります。
さらに、多発するいじめや不登校などの問題行動は、どの教師も多かれ少なかれ、避けては通れません。
そのような指導の難しい子どもたちへの対応で、心身ともに疲れ切ってしまう教師が出てしまうのです。
学級をまとめる難しさ
この項に書くことは、あくまで私の私見に基づいています。
小学校教師の場合、学級の子どもたちに対して、しっかりしつけを行い、学級を上手にまとめている教師は、他の何よりも評価される
授業中の態度や学習のルールがしつけられていれば、多少、教師の学習指導がへたでも、内容が理解できていない子がいても、授業は成立します。
失礼な言い方ですが、教科指導や、書類作成の能力や他の仕事が平均以下でも、担任する学級が荒れていなければ、その教師は、保護者に対しても、他の職員に対しても、堂々としていられますし、一目置かれることになります。
そのために、それぞれの教師が、自分の学級の子どもたちを、しっかりとしつけ、教師のいうことをよく聞いて、まとまって行動できるようにする技術をもっています。
学級の子どもたちをしつけたり、まとめたりする技術は、職人技
その技術は、児童心理学に基づいたものもあれば、公に発表できないようなグレーな内容のものもあります。
もちろん体罰ではありません。
長年続けられてきた小学校独自の知恵や技術で、先輩からの見よう見まねで身に付けていきます。
実は、教員の技術の多くは、このように、口承や見よう見まねで感覚的に覚える、昔ながらの職人技に近いものです。
学級の子どもたちをしつけたり、まとめたりする力のない教師に対しては、子どもたちは、容赦なく、わがままを言って困らせる
いくら授業を上手にしていても、子どもたちのわがままを抑える力がないと、30人、40人の小学生相手に、授業は成立しません。
学級の子どもに、授業中の態度や廊下の歩き方などをしつけたり、ルールに従ってまとまって行動できるようにしたりできないと、学級が荒れてきます。
そして、いじめやけんかの絶えない、授業が成立しない、けが人が多い、集会のときもおしゃべりをしている、などの問題が出てきます。
すると、他の職員からも蔑視され、保護者からも批判を受け、職場で肩身の狭い思いをすることになります。
担任として、学級が崩れるという、最大の失敗は許されないのです。
学習指導の難しさ
毎年いろんな学年、いろんな教科を教えるので、教材研究が大変
小学校の教師は、年度当初の4月1日に、その年度の担任をする学年を、管理職から初めて伝えられます。(学校によっては、早めに知らせるところもあります。)
それが、1年生から6年生のどの学年であろうと、引き受けるしかありません。
現在、高学年の教師の、教科担任制がすすめられていますが、それも、何の教科の専科の先生が来てくれるか分からないので、その年度に、どの教科を任されることになるのか、その年度にならないと分かりません。
教科担任の場合は、同じ授業を何度もしますので、教材研究の負担は減りますが、小学校の低学年では、大抵の場合、ほとんどの教科を一人の担任が受けもちます。
少人数指導員や発達障害支援員、学習支援員が付くことはありますが、その場合も、担任が授業をします。
なので、毎日5時間分の授業研究と準備が必要なんです。
教科書や指導書、指導方法はずっと同じではなく少しずつ変わっていく
ベテランで、毎年低学年を受けもっている先生や、若くて体力や指導力があり、高学年を毎年受けもっている先生もいます。
このような場合は、ほとんど教材研究をしなくても、プリントや資料がなくても、授業ができる人もいます。
しかし、教科書や指導書、求められる指導方法は少しずつ変わります。
そして、「楽しい授業」や、「分かりやすい授業」が以前より求められるようになり、限られた授業時間の中で、評価項目に照らし合わせて、評価もしなければいけません。
管理職の言動や管理職との人間関係
管理職には様々なタイプの人がいる
一口に管理職と言っても、実にいろいろなタイプの校長先生や教頭先生がいます。
教務主任の先生も、その意向を受けて仕事をしていますので、ほとんど管理職のような立場にいますが、この立場の人たちも、いろいろなタイプがいます。
このような管理職の言動に対して、不満に思うことがあるでしょう。
しかし、それについていろいろ言ってもあまり意味がないばかりか、自分の立場がどんどん悪くなるだけです。
パワハラを受ける教師も何度も見てきました。
あくまでも、私が経験してきた公立の小学校の職員室に限りますが、すべてそうでした。
ですので、言いたいことをつい言ってしまう人や、言えなくて、不満が溜まってしまう人は、やめたくなってしまうでしょう。
管理職とうまく付き合う秘訣
ですが、ストレスを感じても、上手に発散できる人は大丈夫です。
そして、「管理職は、自分のことを分かってくれている。」と、過度な期待をもたないことです。
管理職も忙しすぎる
近年、学校の業務は増え続けています。
管理職が教育委員会などに回答しなければならない、学校への調査やアンケートの量も半端でないそうです。
管理職も余裕がないのです。
その上、教員評価や学校評価、職員の勤務時間の管理も始まり、何でも悩みを聞いてくれる優しい校長先生、教頭先生では、いられなくなってしまったのです。
これもあくまでも私の考えですが、何を言われても、疑問をもたず素直に従えるような人、細かいことを気にしない人、相手に期待しすぎない人、ストレスを上手に発散できる人でないと、教師の仕事は続けられません。
同僚との人間関係
同僚はライバル
同僚は、仲間であると同時にライバルでもあります。
若くて、できる人がいると、妬まれたり、職員会で意見を言う人は、陰口を言われたりする傾向があります。
そして、よくない行動は、すぐに管理職にも伝わります。
ですので、同僚に気を許し過ぎてしまわない方がいいです。
先輩の教師には注意!
目上の人ににらまれるとつらいです。
私も、年配の教師からパワハラやいじめを受けたことがあります。
同学年の女の先生たちからいじめを受けている男の先生がいる学校もありました。
上手にかわす
あまり周りの人に気を遣いすぎてしまっても疲れます。
何を言われても、深刻に考えず、上手にかわせるようになりましょう。
体力的にきつい
基本は立ち仕事
小学校の担任の教師に太っている人は少ないです。
なぜかというと、体力を使う仕事だからです。
(あくまでも、私の主観です。統計データとか科学的根拠はありません。)
体育の授業はもちろん、教師は基本的に立って授業を行います。
(立ってなくても授業はできますが、習性でしょうか‥‥。)
そして、大きな声を出して話し続けたり、常に周囲に気を配ったりしています。
体力を使うだけでなく、気力も相当使います。
外気にさらされる機会が多い
そして、最近は教室の冷暖房も完備されつつありますが、それでもまだ、廊下や運動場、体育館、特別教室、通学路など、冷暖房がない場所や、外気にさらされる場所が多いです。
なので、汗をだらだら流して仕事をしなければいけないことが多いです。
(体感には個人差があります。ご了承ください。)
力仕事が多い
そして、授業の準備、行事の準備や後片付けなどで、力仕事をすることも結構あります。
当たり前ですが、年齢とともに、体力も衰え、人によっては、体がしんどくなってきます。
しかし、年を取っているからといって、力仕事が免除されるわけではありません。
やらなければ、「協調性がない。」と見なされ、教員評価が落ちてしまうでしょう。
そして、気力や根気、記憶力、集中力も衰えてしまいます。
個人差がありますが、体力的にきつくなり、私のように定年前にやめてしまう人もいます。
しなければならないことが増える一方
外国語など新しい指導内容がどんどん入る
特にここ数年で、教育現場に新しいことがいくつも増えました。
外国語、道徳の教科化、プログラミング教育、タブレットや電子黒板を使った授業、アクティブラーニングなどです。
教科書や指導方法も変わる
そして、教科書や指導方法、評価の観点も少しずつ変わります。
教師も勉強して指導法や評価方法を学んでいかないといけないのに、その時間はほとんどありません。
評価されることが増える
さらに、教員評価や学校評価、全国学力テスト、いじめアンケート、体罰アンケート、など、学校や教師を評価する制度もどんどん入ってきました。
個別の支援・指導が必要になった
このことを、否定するつもりは全くありませんが、発達障害のある児童に対しては、個別の教育支援計画と個別の指導計画を作成することが義務づけられ、必要な支援をするようになったことも、普通学級で一人で対応しなくてはいけない担任には、負担が大きいです。
そして、今書いたことは、新たに加わった仕事内容ですが、それに対して減ったことはわずかです。
新しいことをどんどん勉強して実践することができる意欲と気力と体力が必要です。
負担に感じてしまう人は、不満がたまってしまうのです。
勤務環境を変えられない
公務員としての立場がある
当たり前のことですが、公務員ですので、国や自治体、教育委員会の指示には基本的に逆らえません。
さらに、勤務環境に不満があっても、それを言うことも許されないような雰囲気が公立の学校にはあります。
ほとんどの教師は、不満があって、それを管理職に言ったとしても無駄なことを知っています。
忙しすぎて、不満を言っている時間もない
そして、あまりにも忙しいので、自分たちの勤務条件について、詳しく調べる人がそもそもいません。
管理職に不満を言ったり、組合に訴えたり、教育委員会に申し出たり、ましてや文部科学大臣に直訴したりなんてことを考えている暇もありません。
不満があって耐えられない人は、公立学校の教師や公務員はやめて、合う職種や職場を探して転勤するか、自分で事業を始めるとかした方がいいと思います。
まとめ
何度も繰り返しますが、これらはすべて私の経験や考えから書いています。
ですので、ここに書いてあることがすべての公立の小学校教師に当てはまるわけでは、当然ありません。
脅すわけではありませんが、教師になろうかどうか悩んでいる人、自分は教師に向いていないんじゃないか、やめた方がいいんでは、と思っている人の助けになれば、と思い、正直に書きました。
ところで、私は、教師に向いていない方の人間ですが、何とか33年間勤めて、自分の子どもたちが二人とも自立したこと、主人が定年退職したこと、55歳になり、定年前早期勧奨退職の対象になったことで、退職金が2割増しになることを知り、退職しました。
大事なのは、ここに書いてあるような困難さはあるけれど、定年まで立派に勤め上げることができる人もたくさんいるということです!
そして、私のように、失敗や苦労も多く、鬱病になってしまい、一時休職しても、復帰して、人知れず薬を飲み続けながら、ひっそりと長年勤めた教師もいるのです。
次回は、「いつ退職するのがお得か?公立学校教員の退職(定年前早期退職・定年退職等)の種類と手続きの仕方①」です。
また、私のサイトには、「コロナ禍で少人数学級への移行は可能か~文部科学省はずっと提案し続けている!①~教育関係者・文科省・政府の現在の意向~」から始まる少人数学級実現に関するシリーズ、「学校における働き方改革は可能か①「教諭等(事務職員)の標準的な職務の明確化に係る学校管理規則参考例等の送付について(通知)」」から始まる学校における働き方改革に関するシリーズ、「自治体により教育政策はどれぐらい違うのか?/政令指定都市編①~横浜市・大阪市・名古屋市~」で始まる自治体の教育政策の比較に関するシリーズ、「地方公務員法改正案施行で60歳以降の勤務条件はどう変わるのか①~定年前再任用短時間勤務制~」で始まる定年延長に関するシリーズもあります。ぜひ読んでみてくださいね!
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