はじめに
前回の記事「学校における働き方改革は可能か⑯~平成24年度小学校2年生での少人数学級の実現、部活動外部化及び地域による支援、ICT化への歩み~」では、平成24年度予算で、900人の加配定数措置により、小学校2年生の35人以下学級が成立したことと、計画的な教職員定数改善計画は策定されなかったことについて書きました。
合わせて、「学校における働き方改革」につながる「運動部活動地域連携再構築事業」等の事業が少しずつ実施されていることについても触れました。
今回は、平成25年度の文部科学省概算要求についてです。
平成24年8月1日に「社会保障・税一体改革関連法」の一つである、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」が制定されました。
これは、「消費税率を平成26年4月1日から8%に引上げる。」ことを定めた法律です。
この決定により、政府の財政対策に対する世間の目が一段と厳しくなった中、平成25年度概算要求がどのように成立したかの経緯を書きたいと思います。
教職員定数制度について
基礎定数と加配定数の違い
まずは、今さらですが、私の記事でよく使っている「基礎定数」と「加配定数」という言葉の違いについて説明します。
基礎定数って何?
公立小中学校の児童生徒数に基づいて算定した教職員の数です。学級数に見合った数になります。平成24年度には、全国で約64万人でした。
じゃあ、加配定数は?
少人数指導やいじめ対応、通級指導などに必要となる人数を、各都道府県から申請することで、配当される教職員数です。毎年人数が変動するため、その分は正規職員でなく、講師でまかなう必要がある等の短所があります。平成24年度には、全国で約6万人でした。
加配定数の種類
平成25年度概算要求
平成25年度予算の概算要求組替え基準について
日本再生戦略
平成25年度も、平成23年度の「元気な日本復活特別枠」、平成24年度の「日本再生重点化措置」と同様に、政府の進める政策に対してより効果の高い施策に予算を重点配分させる取組みを行いました。
それは、平成24年7月31日に閣議決定された「日本再生戦略」という政策でした。
「日本再生戦略」というのは、平成22年6月22日に閣議決定された「財政健全化目標」の達成に向けて策定されたものでもありました。
そして、
社会保障・税一体改革関連法が成立したことを踏まえ、同改革の着実な実施により、「社会保障の安定財源の確保と財政健全化の同時達成」の第一歩を踏み出すとともに、「日本再生戦略」を十分に踏まえつつ、歳出改革についても更なる取組を継続する
と記されています。
社会保障・税一体改革関連法
「社会保障・税一体改革関連法」は、平成24年8月1日に成立した「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」を含む、社会保障と税に関する一連の法律です。
この「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」とは、「消費税率を平成26年4月1日から8%に引上げる。」ことを定めた法律です。
そして、「社会保障・税一体改革」の工程については、平成24年2月17日に閣議決定された、「社会保障・税一体改革大綱」で示されていました。
特別重点要求等
平成25年度に政府が新しく行った施策としては、予算を重点配分させる分野をさらに「特別重点要求」と「重点要求」の二つに分類したことです。
特別重点要求では、
グリーン、ライフ、農林漁業に係るものについて、「日本再生戦略」を踏まえ、中小企業の活力を最大限活用しつつ、(~中略~)「特別重点要求」を行うことができる。
とあります。
また、
特別重点要求及び重点要求については、各省大臣は、(~中略~)自らが行う他の既存予算の見直し額を上回る特別重点要求及び重点要求を行うことができる仕組みとする。
また、原発代替エネルギーをはじめとするグリーン分野に予算を重点化するため、各省大臣が、特別重点要求として、特にグリーン分野に係る施策を要求する場合には、その程度に応じて、特別重点要求が増加する仕組みを導入する。
という、徹底的にムダを省き、政府の意図する政策に、予算をより多く注ぎ込むことができるように考えられた方法でした。
そして、25年度予算では、何といっても、「社会保障・税一体改革(消費税率引上げ)」についての国民の理解を得るため、行政の効率化・簡素化をより徹底させる必要がありました。
平成25年度の文部科学省「特別重点要求・重点要求」
平成25年度の文部科学省予算の概算要求では、「多様な人材を輩出する教育改革の推進」、「スポーツ・文化芸術の振興」、「グリーン及びライフ分野を中心とした科学技術の推進に資する施策」を「特別重点要求」及び「重点要求」に据えて要求しました。
平成25年度文部科学関係概算要求のポイント
平成25年度文部科学省予算の概算要求額は、対前年度比7.2%増でした。
その中で、文教関係予算は、7.6%の増、スポーツ関係予算は10.3%の増、文化芸術関係予算は、3.7%の増、科学技術予算は6.7%の増でした。
平成25年度文部科学省概算要求 「働き方改革関連」事業
平成25年度、文部科学省の要求した事業のうち、重点要求として、「少人数学級の推進など計画的な教職員定数の配置」、「理数教育の推進」、「情報通信技術を活用した学びの推進」、「いじめ対策等総合推進事業等」などを提案しました。
平成25年度概算要求(9月) 教職員定数改善
子どもと正面から向き合うための新たな教職員定数改善計画案
平成25年度の「子どもと正面から向き合うための新たな教職員定数改善計画案」については、このサイト内の別の記事「コロナ禍で少人数学級への移行は可能か~文部科学省はずっと提案し続けている!③~小2の35人学級のための教員の加配措置の実現から平成25年度予算成立まで~」に詳しく書いてありますので、今回は、簡単に概要だけをお伝えします。
「子どもと正面から向き合うための新たな教職員定数改善計画案(H25~H29)」では、5年間をかけて27,800人の教職員定数を増加させることを計画していた。
つまり、1年で3,900人ずつ学級規模適正化定数を増加させることで、5年計画で中学3年生までの35人以下学級を実現する計画であった。
35人以下学級の推進など学級規模の適正化
35人以下学級の推進など学級規模の適正化を進めるために、平成25年度は、5ヵ年計画の初年度分として、3,900人を要求しました。
個別の教育課題に対応した教職員配置の充実
個別の教育課題に対応した教職員配置の充実を図るために、平成25年度は、5ヵ年計画の初年度分として、1,700人を要求しました。
理科の観察・実験の準備に係る補助員の配置
「理科の観察・実験の準備に係る補助員の配置」として、教員を支援する観察実験アシスタント(PASEO)を配置するための経費にかかる補助を行うための要求をしました。
情報通信技術を活用した学びの推進
「情報通信技術を活用した学びの推進」として、「学びのイノベーション事業」に2億8,100万円、「ICTを活用した課題解決型学習の推進事業」に2億9,900万円、合計5億8,000万円を要求しました。
いじめ対策等総合推進事業
「地方自治体において幅広い外部専門家を活用していじめの問題等の解決に向けて調整、支援する取組の促進」として、第三者的立場から調整・解決する取組、外部専門家を活用して学校を支援する取組を200地域で行うための予算を要求しました。
その他、「いじめの未然防止・早期発見・早期対応」のための学校への支援の中で、特に、「学校における働き方改革」に通じるものを以下に書き出しました。
インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の充実
「インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の充実」として、新しく「インクルーシブ教育システム構築事業」のための予算を要求しました。
この中には、学校に通う児童生徒の中で医療的ケアが必要な児童生徒のための、「医療的ケアのための看護師の配置」として、329人分の予算の要求も含まれました。
地域キャリア教育支援協議会設置促進事業
新しく「地域キャリア教育支援協議会設置促進事業」のための予算を要求しました。
これは、企業等による出前事業等の教育活動支援の促進や職場体験・インターンシップ受入れ先の開拓やマッチング等を行う「地域キャリア協議会(仮称)」の設置を促進し、地域に密着したキャリア教育の支援を行うための事業です。
学びを通じた地域づくりと学校・地域・家庭の協同
学校・家庭・地域の連携による教育支援活動推進事業
「学校・家庭・地域の連携による教育支援活動推進事業」として、447億円を要求しました。
地域とともにある学校づくりの推進(コミュニティ・スクール等)
- 「地域とともにある学校づくりの推進(コミュニティ・スクール等)」として、保護者や地域住民が学校運営に参画する「コミュニティ・スクール」を充実・拡大するための予算を要求しました。
- 平成28年度までに全公立小中学校の1割(約3,000校)にコミュニティ・スクールを拡充する計画でした。
- この予算の中には、「コミュニティ・スクールのマネジメント力強化に関する実践研究」として、事務職員加配措置も含まれていました。
スポーツ立国の実現
運動部活動地域連携再構築事業
「運動部活動地域連携再構築事業」として、66の都道府県・指定都市教育委員会に「運動部活動等推進委員会」を設置し、地域のスポーツ指導者を中学校・高等学校等へ派遣することを推進する計画でした。
日本中学校体育連盟や全国高等学校体育連盟、日本体育協会、大学法人等との連携・協力の在り方についての実践研究を行うための予算も要求しました。
スポーツ for all プロジェクト
「スポーツ for all プロジェクト」のための予算を新規で要求しました。
「スポーツを支える人材活性化促進事業」や「地域を活用した学校丸ごと子どもの体力推進事業」等により、すべての国民がその自発性の下に、各々の関心、適性等に応じて日常的にスポーツに親しめる環境を整備するための施策でした。
地域スポーツとトップスポーツの好循環推進プロジェクト
「地域スポーツとトップスポーツの好循環推進プロジェクト」では、トップアスリートによる地域のジュニアアスリートへの指導や指導者に対する研修会を開催するとともに、学校に「小学校体育活動コーディネーター」を派遣することなどを通じて、地域スポーツとトップスポーツの好循環を実現するための予算を要求しました。
まとめ
平成25年度概算要求は、「社会保障・税一体改革関連法」の一つである、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」が制定された後の要求でした。
そして、「日本再生戦略」により、歳出改革を迫られる中での予算要求でした。
さらに、政府が示した「特別重点要求」には含まれない事業も、文部科学省の要求の中には多く含まれていました。
しかし、そんな中でも、平成25年度文部科学省予算の概算要求額は、対前年度比7.2%増でした。
このような経過を経て、やっと概算要求が提出されたのですが、その後、平成24年12月の衆議院議員総選挙で、自民党が圧勝して、三党連立政権が終わることになります。
それにより、概算要求を見直すことになり、再提出することになります。
次回「学校における働き方改革は可能か⑱~政権交代で第2次安倍政権誕生と平成25年度予算成立~」では、概算要求が再提出になることと平成25年度予算編成が国会の審議を経て成立する過程について説明します。
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