はじめに
前回の記事「コロナ禍で少人数学級への移行は可能か~文部科学省はずっと提案し続けている!⑦~平成31年度(令和元年度)予算~」では令和元年度の予算について説明した。
今回は、文部科学省が令和2年度予算で、少人数学級実現に向けてどんな提案をしたかについてまとめた。
そして、このシリーズ最後となる本記事で、今までの記事を振り返り、結局のところ少人数学級への移行は可能なのかについて、私なりの結論を出してみたい。
この記事を読んでほしい人
- 現職の教員
- 教育関係者
- 保護者の方
- 教育問題に興味がある人
この記事を読むと分かること
- 少人数学級がどのようにして進められてきたのかの経緯(令和2年度予算)
- 少人数学級への移行は可能かの結論
令和2年度概算要求
義務教育費国庫負担金
令和2年度のテーマは、平成30年度から3年目となる「新学習指導要領の円滑な実施と学校の働き方改革のための指導・運営体制の構築」となった。
「教員の持ちコマ数軽減による教育の質の向上」のため、昨年度同様に、小学校英語指導専科のための加配定数1,000人が計上された。
また、初めて小学校高学年における教科担任制に対する予算として、2,090人分が要望に盛り込まれた。
指導方法工夫改善定数3.3万人について、小学校のティームティーチング6,800人のうち算数での活用が見込まれる4割を除く残りの4,000人については、高学年の体育や理科といった専科指導が行われる教科にも活用されている。
この定数については、学校の働き方改革の観点から、専科指導のための加配定数に発展的に見直す。(2年間で段階的に実施)
とある。
また、通級による指導等のために、「教育課題への対応のための基礎定数化関連」として、315人増の予算が要求された。
その他
中学校における部活動指導員の配置
部活動指導員を12,000人配置するために、15億2千9百万円の予算を組み入れた。
今回初めて交通費6,000人分を含めた。
学校における働き方改革推進事業
「学校現場における業務の適正化に係る費用」という費目はなくなった。
代わりに、「学校における働き方改革推進事業」として、今回初めて1億8千9百万円を計上した。
令和2年度予算
「統合校・小規模校への支援」としていた費目を、
「義務教育9年間を見通した指導体制への支援」
の中の
専科指導に積極的に取り組む学校や、子供が切磋琢磨できる学習環境を整備するとともに、小学校高学年における専科指導に積極的に取り組む複数の学校(学園)を支援
の費目に組み込んだ。
その人数は、+201人であった。
令和2年度概算要求と令和2年度予算の比較
義務教育費国庫負担金
費目 | 概算要求数 | 予算数 | 差 |
---|---|---|---|
小学校英語専科指導のための加配定数 | +1000人 | +1,000人 | +-0 |
義務教育9年間を見通した指導体制への支援 | +2,090人 | +2,201人 | +111人 |
中学校生徒指導体制の強化 | +670人 | +100人 | -570人 |
学校総務・財務業務の軽減のための共同学校事務体制の強化 | +30人 | +20人 | -10人 |
主幹教諭の配置充実による学校マネジメント機能強化 | +30人 | +20人 | -10人 |
(いじめ・不登校等の未然防止・早期対応等の強化/再掲) | (+670人) | (+100人) | (-570人) |
貧困等に起因する学力課題の解消 | +50人 | +50人 | +-0人 |
「チーム学校」の実現に向けた学校の指導体制の基盤整備(養護教諭・栄養教諭等) | +20人 | +20人 | +-0人 |
統合校・小規模校への支援 | +30人 | (+201人)再掲 | -30人 |
平成29年の義務標準法改正に伴う基礎定数化関連(通級による指導等) | +315人 | +315人 | +-0人 |
合計(再掲除く) | +4,235人 | +3,726人 | -509人 |
少人数指導や少人数学級の推進に対する予算の増額はなかった。
その他
部活動指導員
部活動指導員は、12,000人の要求に対し、10,200人で決定した。
交通費については、人数の制限は付かなかった。
学校における働き方改革推進事業
要求額が、1億8千9百万円だったのに対し、予算額は、3千2百万円と大幅減であった。
新しい時代を見据えた学校教育の実現に向けて
「令和2年度予算のポイント」の中に、
現在、中央教育審議会で、小学校高学年における本格的な教科担任制の導入など、新しい時代を見据えた学校教育の実現に向けて、教育課程、教員免許、教職員配置の一体的検討が行われており、これらの検討については、令和元年度中に方向性を、令和2年度には、答申をいただいた上で、教師の勤務実態状況調査を実施することになる令和4年度以降に必要な制度改正が実施できるよう、文部科学省として検討を進めることにしている。
令和3年度においては、「義務教育9年間を見通した指導体制への支援」のための令和2年度予算の効果を検証し、子供が切磋琢磨できる学習環境の整備の観点を含め、その検証結果を上記の制度改正に反映する。
とある。
この記述で気になった点は、
小学校高学年における本格的な教科担任制の導入など、新しい時代を見据えた学校教育の実現に向けて、教育課程、教員免許、教職員配置の一体的検討
教師の勤務実態状況調査を実施することになる令和4年度以降に必要な制度改正が実施できるよう文部科学省として検討を進める
の2点である。
まず、
教育課程、教員免許、教職員配置の一体的検討
という言葉から、小学校高学年における本格的な教科担任制の実施には、何年もかかることが予想される。
次の、
教師の勤務実態状況調査を実施することになる令和4年度以降
という言葉から、超過勤務の問題を、制度から変えることができるのは、令和5年度以降になるということが分かる。
学校における働き方改革と少人数学級
学校における働き方改革の現状
今まさに、教育委員会や現場は、試行錯誤しながら「学校における働き方改革」を進めている。
行事の精選や、通知表などの書類の簡略化は、おそらくどの自治体でも行っていると思われる。
それでも、業務はなかなか減らせない。
逆に、新学習指導要領の実施で、授業時間が増え、新しい教科や教師が学ばなければいけない新しい指導内容が増えている。
部活動指導員はまだ十分配置されていない。
加配教員や学習指導員、スクールサポートスタッフ等も十分な配置が行われていない。
それどころか、病気療養や育休教職員の代わりの教職員も足らない。
そして、今まさにコロナ禍で、消毒作業やトイレ掃除などの負担、遅れている学習内容を詰め込むことによる負担が増えている。
そういう現状でも、ひと月の超過勤務時間を45時間以内に収めるように、各学校に圧力がかかる。
文部科学省が現在目指しているものは、少人数学級ではない
現在の文部科学省の予算から分かることは、文部科学省が力を入れているのは、少人数学級ではない形の、外部人材の登用や専科教員の配置である。
そして、今、すでに取り組んでおり、改善しようとしているのは、教師の超過勤務時間の削減である。
また、令和2年度に小学校で本格施行され、令和3年度には中学校で本格施行される新しい学習指導要領に対応するために、そして、またすぐ起こるかもしれないコロナ禍による休校で、家庭学習を充実させるために急がれている対策は、ICT環境の整備やデジタル教材の配置等である。
少人数学級についての文部科学省と財務省のやり取りの振り返り
現在、少人数学級は、コロナ禍で、教室内で子供たちが密集することによる感染を防ぐために、必要とされる声が多く聞こえるようになった。
そして、文部科学大臣も、いろいろな場所で必要性を語っている。
しかし、これまでの私の記事に書いてきたとおり、日本の公立小中学校では、少人数学級に対する歩みは遅い。
昭和33年まで、50人学級が標準であった。
そこから、33年間で、段階的に移行が行われ、平成3年に40人学級が完全に実施された。
20年後の平成23年に、「改正義務標準法」が制定され、ようやく小学1年生での35人学級が施行された。
その後も、
平成23年に、小1での35人学級のための教職員数が、基礎定数化し、その後、順番に他の学年も、法律改正により35人学級へと移行するかと思われた。
しかし、実際は、平成24年度の義務教育国庫負担金の小2の35人学級のための予算は、少人数学級編成に使用可能な「指導方法工夫改善加配」が900人増となったのみであった。
さらに、
「子どもと正面から向き合うための新たな教職員定数改善計画案(H25~H29)」では、5年間をかけて27,800人の教職員定数を増加させることを計画していた。
つまり、1年で3900人ずつ学級規模適正化定数を増加させることで、5年計画で中学3年生までの35人以下学級を実現する計画であった。
この5か年計画は、白紙に戻された。
そして、平成25年度予算の別添えとして、少人数学級への移行が進められるためには、
- 習熟度別指導よりも、少人数学級の方が効果があると証明されることが必要
- 全国学力・学習状況等調査で、少人数学級が優位であることが証明されることが必要
という内容の文書が出された。
その後、「教育再生の実行に向けた教職員等指導体制の在り方等に関する検討会議」の提言で、
平成26年5月30日財政制度等審議会「財政健全化に向けた基本的考え方」で、「教職員定数を拡大することが、他の施策への投資よりも有効であるとは考えられない。」と指摘された
平成26年5月27日の経済財政諮問会議においても、「生徒数が更に減少する中、教師の数、クラスの定員といった「数」よりも、一人一人の能力を高められる教師の「質」を重視した取り組みを強化すべき。」と有識者議員により指摘されている
と、少人数学級を否定する方向で結論付けられてしまった。
合わせて、財務省の「財務制度等審議会」より、「平成27年度予算の編成等に関する建議」が提出された。
その内容は、
- 毎年1,600人の加配定数の合理化を行うこと
- 小1の35人学級は明確な効果は認められず,40人学級に戻すこと
- 教員給与水準の縮減を行うこと
という驚くべきものであった。
幸い小1を40人学級に戻すということはされなかった。
平成28年、文部科学省は、「財政制度等審議会財政制度分科会(平成28年11月4日開催)資料についての文部科学省の見解」という文書を発表した。
これは、少人数学級に対しての財務省の調査を否定する内容だった。
平成29年度は、文部科学省のこの取り組みでの成果で、法律が改正され、「少人数指導等の推進のための基礎定数」が新設されることとなった。
そして、今後10年間で、教職員の加配定数の基礎定数化を進めることが約束された。
平成29年度~38年度の10年間で、加配定数(平成28年度約64,000人)の約3割を基礎定数化。【義務標準法の改正】
平成29年度予算では、「指導方法工夫改善加配の一部(約9500人)を基礎定数化」
とあり、教職員定数のうち、少人数学級のために使用可能な費目の基礎定数化が進んだ。
しかし、結局のところ、文部科学省がいろいろと策を講じてきたものの、平成25年度以降、少人数学級のための教員数が、増加されることはなかった。
まとめ
ここまで調べてきて分かったことは、「学校における働き方改革」の考えには、少人数学級や少人数指導は含まれていないことだ。
専科指導のための教員や専門スタッフ、外部人材の配置で、担任や学校を支援する人材を増やすことで、担任の負担を減らす考えのようだ。
また、少人数学級を推進するためには、「少人数学級での教育が、そうでない学級での教育に比較して、子供の学力向上の要因として優位である。」という証明がされる必要があることも重要だ。
コロナ禍が一過性のものである以上、感染症対策としての一時しのぎの措置で、教室を分けた少人数指導がされることはあるにしても、法律の改正による教職員の基礎定数の改善が早急に行われるとは考えにくい。
一度改正すると、長年にわたって多大な予算が必要となるからだ。
とは言え、少人数学級は、一人一人にきめ細かな指導が可能であるという観点から、教師にとっても、保護者にとっても、子供にとってもありがたいものであるのには変わりがない。
今後の少人数学級に対する政府の動向に期待したい。
次回からは、「学校における働き方改革は可能か①「教諭等(事務職員)の標準的な職務の明確化に係る学校管理規則参考例等の送付について(通知)」」以降のシリーズ記事で、文部科学省の行ってきた学校の働き方改革に関する政策の歴史について詳しく調べていく。
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