はじめに
前回の記事で平成28年度の概算要求までの学校における働き方改革について説明しました。
今回は、いつもと内容を変更し、学校における働き方改革が始まったきっかけについて改めて確認します。
”ずばり、平成19年の「今後の教員給与の在り方について」の答申が学校における働き方改革が始まったきっかけといえます。”
その後、平成27年までの社会全体の働き方改革の経緯について説明します。
それから、平成27年の「学校現場における業務改善のためのガイドライン」について詳しく説明したいと思います。
学校における働き方改革が始まったきっかけと教員の給与の改定の経緯
このシリーズでは、「学校における働き方改革」について書いてきました。
今回はまず、学校における働き方改革が始まったきっかけについて、振り返ってみます。
ずばり、平成19年の「今後の教員給与の在り方について」の答申が学校における働き方改革が始まったきっかけといえます。
そして、「今後の教員給与の在り方について」の答申がなぜなされたかというと、「学校における働き方改革は可能か③」と「学校における働き方改革は可能か④」で書いたとおり、日本政府の施策の結果です。
平成17年に政府は平成18年度予算編成に向け、「小さくて効率的な政府」を掲げて、行政改革を進めました。
そして平成18年には、「行政改革推進法」を制定し、人確法(「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する法律」)の廃止または見直しによって教員の給与削減を行おうとしました。
しかし、平成18年度におよそ40年ぶりに全国の公立小・中学校で行われた教員の勤務実態に関する調査により、日本の教員の長時間勤務が明らかになりました。
そこで、給特法※に基づいて教員の職務と勤務態様の特殊性のために残業手当の代わりに一律で給与の4%支給される「教職調整額」が、40年前の残業時間に合わせて設定されたもので、平成18年度の教員の残業時間の実態に合っていないことが問題になりました。
(※給特法=「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」の略)
このような流れの中で、平成19年に、中央教育審議会は「今後の教員給与の在り方について」という答申を出しました。
この平成19年の「今後の教員給与の在り方について」の答申により、学校における働き方改革が始まったのです。
この答申の「教職調整額」や「義務教育等教員特別手当」やその見直しのための話合いの内容については、「学校における働き方改革は可能か⑥」で詳しく説明しています。
そして、
という趣旨の内容を発表しました。
そして、その後何年にもわたって審議を続け、改定を重ねました。
平成27年までの教員の給与の改定の経緯について以下に書きます。
平成27年までの社会全体の働き方改革の経緯
次に平成27年までの社会全体における働き方改革の経緯について説明します。
新成長戦略(平成22年6月18日閣議決定)
平成22年6月18日に閣議決定された「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ」の、「(6)雇用・人材戦略~「出番」と「居場所」のある国・日本~」の中で、「2020年までの目標」として、
年次有給休暇取得率:70%
週労働時間60時間以上の雇用者の割合:5割減
とあります。
そして、「地域雇用創造と『ディーセント・ワーク』の実現」の章の中で、
また、雇用の安定・質の向上と生活不安の払拭が、内需主導型経済成長の基盤であり、雇用の質の向上が、企業の競争力強化・成長へとつながり、その果実の適正な分配が国内消費の拡大、次の経済成長へとつながる。
そこで、「ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)」の実現に向けて、「同一価値労働同一賃金」に向けた均等・均衡待遇の推進、給付付き税額控除の検討、最低賃金の引上げ、ワーク・ライフ・バランスの実現(年次有給休暇の取得促進、労働時間短縮、育児休業等の取得促進)に取り組む。
と述べています
つまり、有給休暇を取得しやすく、長時間労働のない労働環境を整えることが、年齢や性別、子供の有無などに関わらず、誰もが働きやすい社会を作り、少子高齢化であっても、内需拡大を図ることができるということです。
平成26年6月24日「『日本再興戦略』改訂2014」(平成26年6月24日閣議決定)
平成26年6月24日「『日本再興戦略』改訂2014」(平成26年6月24日閣議決定)において、「改革に向けての10の挑戦」の資料の中で、「柔軟で多様な働き方の実現」のために、「新たに講じる施策」として、以下の3つの施策が掲げられました。
過労死等防止対策推進法(平成26年11月1日)
過労死等が多発し大きな社会問題となっていることや、過労死等が社会にとっても大きな損失であることから、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現を目指して、平成26年11月1日に「過労死等防止対策推進法」が施行されました。
将来的に過労死等をゼロにするために、以下の目標の早期達成を目指しました。
「『働き方改革』の推進について」(平成26年12月22日/厚生労働省/通知)
平成26年12月22日には、厚生労働省から「『働き方改革』の推進について」という通知が出されました。
この中で、
週の労働時間が60時間以上の雇用者の割合は近年低下傾向にあるものの、依然として1割弱で推移しており、新成長戦略(平成22年6月18日閣議決定)における一定の経済成長を前提とした政府目標である「2020年までの目標」「5割減」(具体的には5%)の達成に向けて課題を残している状況にある。
さらに、年次有給休暇の取得率をみると、近年5割を下回る水準で推移しており、同戦略における政府目標である「2020年まで目標」「70%」に向けて一層の取組が求められる状況にある。
と述べています。
そして、
長時間労働対策の強化が政府としての喫緊かつ重要な課題となっている。
とあります。
そのため、都道府県労働局に向けて企業トップ等への働きかけを積極的に実施するように促しています。
過労死等の防止のための対策に関する大綱(平成27年7月24日閣議決定)
平成27年7月24日に、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が閣議決定され、都道府県労働局長宛に「『過労死等の防止のための対策に関する大綱』に基づく対策の推進について」が、通知されました。
大綱は、「過労死等防止対策推進法」に規定されている調査研究等、啓発、相談体制の整備等、民間団体の活動に対する支援の各対策を効果的に推進するため、政府として、今後おおむね3年間における取組について定めるものでした。
「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策」(第3回一億総活躍国民会議/平成27年11月26日)
平成27年11月26日「第3回一億総活躍国民会議」が行われました。
そこで、安倍総理は、
「一億総活躍社会」という新たな経済社会システムを作る上で、生産性革命や働き方改革が重要なテーマになる。
という主旨の発言しました。
そして、緊急に実施すべき政策として、
少子高齢化した日本では、人出不足の顕在化・労働供給の減少といった問題に直面しており、「新・第一の矢」として、働き方改革による労働参加率の向上やイノベーションによる生産性の向上が必要である。
という考えを打ち出しました。
電通の過労自殺事件(平成27年12月25日)
平成27年12月25日、広告業界最大手である電通で女性社員が長時間労働による過労が原因で鬱病を発症し自殺したことがマスコミを賑わせました。
平成26年11月1日に「過労死等防止対策推進法」が施行され、平成27年11月26日には、「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策」(第3回一億総活躍国民会議)を発表し、安倍総理が働き方改革を進めようとしている時期のことでした。
電通については、平成元年に男性社員が過労自殺した事件の訴訟でも、最高裁が、安全配慮義務を怠ったとして過重労働の責任を認めていて、違法残業に対する是正指導が何度もされていたのにも関わらず起こった事件でした。
学校現場における業務改善のためのガイドライン(平成27年7月27日)
学校現場における業務改善のためのガイドライン~子供と向き合う時間の確保を目指して~(概要)(平成27年7月27日)
平成27年7月27日に、文部科学省から、「学校現場における業務改善のためのガイドライン~子供と向き合う時間の確保を目指して~」が発表されました。
TALIS2013調査結果等で教員の多忙化が指摘されたことを受け、教員が子どもと向き合える時間を確保し、教員が持てる力を発揮できる環境を整える観点から、業務改善が必要、との考えから策定されました。
業務改善の基本的な考え方と改善の方向性
教育委員会が、今後、学校現場の業務改善に対する支援を行う上での基本的な考え方、改善の方向性、留意すべきポイントを5つの観点で整理しました。
校長のリーダーシップによる学校の組織マネジメント
教員と事務職員等の役割分担など組織としての学校づくり
校務の効率化・情報化による仕事のしやすい環境づくり
地域との協働の推進による学校を応援・支援する体制づくり
教育委員会による率先した学校サポートの体制づくり
業務改善に取り組む自治体における先進的な実践実例
基本的な考え方等を踏まえつつ、業務改善に向けて積極的な取組を行っている教育委員会の実践事例を紹介(18事例、11トピック)
国における業務改善推進のための支援策
学校現場における業務改善の取組に資する国の支援策を紹介
ガイドラインの周知と併せ、各教育委員会に対し通知を発出し、学校現場の業務改善の一層の推進を要請
特に以下の点に留意するよう周知
まとめ
今回は、普段の「学校における働き方改革は可能か」シリーズの内容から一旦離れ、「学校における働き方改革が始まったきっかけ」、「平成27年までの教員の給与改定の経緯」、「社会全体の働き方改革の推移」、平成27年7月の「学校現場における業務改善のためのガイドライン」についてお伝えしました。
平成19年の「今後の教員給与の在り方について」の答申から始まった学校における働き方改革でした。
初めは4%の教職調整額に見合うまで残業時間を減らすために、職務の見直しをしよう、という流れでした。
しかしながら、現実はどうかというと、平成27年時点での職務の見直し、仕事の効率化はほとんど進んでおらず、残業時間は逆に増えました。
そして、教職調整額は4%のまま、教員の給与が他の行政職並になるように、義務教育等教員特別手当が減額されてきました。
そんな中、社会全体では、平成22年に「ワークライフ・バランス」という言葉を使って政府主導で働き方改革が進められたり、平成26年には、「過労死等防止対策推進法」の制定で、労働時間の管理が徹底されたりするようになりました。
そして、ついに平成27年7月には、「学校現場における業務改善のためのガイドライン」が発表されました。
次回は、学校における働き方改革に本格的に取り組み始め、「チーム学校」を合い言葉に、「学校サポートチーム」や「業務改善アドバイザー」の派遣を要求したり、その他の多様な人材をより多く学校に呼び込もうと目論む文部科学省に対して、財務省や政府がどのような判断を下したのか、「学校における働き方改革は可能か㉕~フリースクール等で学ぶ不登校児童生徒への支援/平成28年度予算~」で見ていきます。
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