はじめに
前回の記事「コロナ禍で少人数学級への移行は可能か~文部科学省はずっと提案し続けている!④~平成26年度予算成立から平成27年度予算成立まで~」では、平成26年度予算と27年度の予算が成立するまでの経緯について説明した。
そこでは、財務省と文部科学省の間で、少人数学級の実施に関する激しい攻防が繰り広げられたことを書いた。
財務省の思惑は、教職員給与に係る予算を減少させるため、既に実施されている小学校1年生での35人学級を40人学級に戻し、教職員数を毎年減らし、教員給与水準の縮減までも行おうとするものだった。
結果として、平成26年度の予算では、小学校英語教科化やいじめ・道徳教育への対応として新たな加配措置703人分が配分された。
また、平成27年度の予算では、授業革新やチーム学校などの推進のため新たな定数措置として、900人分の予算配分を行われた。
しかし、平成26年度、平成27年度ともに、少人数学級実現のための予算措置はされなかった。
今回は、その後、平成29年度予算成立までに、文部科学省が少人数学級実現に向けてどんな取り組みをしてきたか、触れたみたい。
結論を言うと、平成29年度予算では、義務標準法の改正による加配定数の3割の基礎定数化を10年かけて行うことが決定されたということが、少人数学級の推進のための大きな成果だった。
なぜなら、少人数学級を自治体で独自に実施することができる「少人数指導等の推進のための基礎定数」が新たに新設され、毎年、学校の児童生徒数に応じて算定され、予算措置されることになったからである。
この辺りのことを詳しく書いていきたい。
この記事を読んでほしい人
- 現職の教員
- 教育関係者
- 保護者の方
- 教育問題に興味がある人
この記事を読むと分かること
- 少人数学級がどのようにして進められてきたのかの経緯(平成28年度予算から平成29年度予算まで)
平成28年度予算概算要求と決定された予算の比較(義務教育費国庫負担金)
平成28年度の文部科学省の国庫負担金の概算要求と決定した予算の違いを下の表で比較して欲しい。
概算要求費目 | 概算要求額 | 概算要求人数 | 決定予算費目 | 決定額 | 決定人数 |
教職員定数の改善増 | +65億円 | +3,040人 | 教職員定数の改善増 | +11億円 | +525人 |
教職員定数の自然減 | ▲67億円 | ▲3,100人 | 少子化等による定数減(教職員定数の自然減、合理化減、学校の統廃合による減等) | ▲85億円 | ▲4,000人 |
教職員の若返り等による給与減 | ▲119億円 | / | 教職員の若返り等による給与減 | ▲170億円 | / |
/ | / | / | 人事院勧告に伴う給与改定 | +231億円 | / |
表から分かるように、国会で決定された予算は、「教職員定数の改善増」、「少子化等による定数減」(教職員定数の自然減、合理加減、学校の統廃合による減等)ともに概算要求からその予算と人数を大きく減らされている。
そして、その中で、特に注目したいのは、概算要求で、1,090人を要求した「アクティブラーニング等の充実に向けた教育環境整備」の項目である。
これは、
主体的な思考力・表現力等を育成する双方向・対話型・少人数による指導の充実・リーダー的教員の養成等
のための予算であった。
「アクティブ・ラーニングによる授業の革新」という、新たな学校教育を進める上で、文部科学省にとて、大切な施策であったはずである。
しかしながら、成立した予算では、文部科学省の施策として「アクティブ・ラーニング」という言葉を大きく掲げることさえもやめてしまった。
「アクティブ・ラーニングの推進」として、
効果的な指導方法・カリキュラム開発等の研究の拠点となる学校に対する加配措置
として、50人が配分されるのみとなった。
このように、必要な予算がつかないことで、文部科学省が進めたいのにもかかわらず、「アクティブ・ラーニングによる、双方向・対話型・少人数による指導の充実」が困難になってしまった。
財政制度等審議会財政制度分科会(平成28年11月4日開催)資料についての文部科学省の見解
平成29年度予算に向けて、財務省で「財政制度等審議会財政制度分科会」が、平成28年11月4日に開催され、資料が発表された。
文部科学省は、その後、その資料の内容を受けて、「財政制度等審議会財政制度分科会(平成28年11月4日開催)資料についての文部科学省の見解」という文書を発表した。
平成29年度
この資料についてのポイントを、以下に会話形式で示す。
平成に入って以降、児童生徒一人当たりの教職員定数が40%増加しています。これ以上教職員定数を増やす必要はないんじゃないですか。
「児童生徒一人当たりの教職員定数が40%増加している」といっても、児童生徒一人当たりの教職員定数が多い、特別支援学校・支援学級に通う子どもが約11%増えているし、
10年以上前に終了した第5~7次教職員定数改善計画で、約27%増えた分が大きいし、
その後、約10年間、通級指導やいじめなどに対する加配定数を約2%拡充してきたからです。
イギリスは、日本より、教員一人当たりの児童生徒数は多くて、教員はもっと大変みたいですよ。
イギリスの学校は、教員に準じた多種多様な職員配置が充実していて、補助教員や昼間指導員がたくさんいるから、教員の仕事量は少ないんです。そして、職員配置数が多いから、日本より、公財政支出は増えています。
財務省試算によると、加配定数教職員一人当たりの、特別な指導を必要とする児童生徒数は、減っていくはずです。
特別な指導を必要とする児童生徒の数が増えているから、試算は間違っています。それに、こうした児童生徒数に応じて教職員定数を算定する「基礎定数化」をして欲しいです。
次世代の学校指導体制の在り方について
平成29年度予算に向け、文部科学省が、「次世代の学校指導体制の在り方について」(最終まとめ)を公表した。
この中で、
10年程度を見通した、「予算の裏付けのある教職員定数の中期見通し」を策定すること
そのために、
「義務標準法」を改正すること
を掲げた。
平成29年度予算
このような文部科学省の取り組みの後で、平成29年度予算が成立した。
その内容で大きな進展だったのは、
平成29年度~38年度の10年間で、加配定数(平成28年度約64,000人)の約3割を基礎定数化。【義務標準法の改正】
ということが決定されたことだった。
そして、
平成29年度予算では、「指導方法工夫改善加配の一部(約9,500人)を基礎定数化」
とあり、少人数学級のために使用可能な教職員定数が、基礎定数化されたということ。
よって、少人数学級推進のためには、大きな進歩であった。
義務教育諸学校の体制の充実及び運営の改善を図るための公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律等の一部を改正する法律
平成29年度予算成立を受け、「義務教育諸学校の体制の充実及び運営の改善を図るための公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律等の一部を改正する法律」が制定された。
基礎定数化に伴う教職員定数の標準の改正が盛り込まれ、学校の児童生徒数に応じて算定される「少人数指導等の推進のための基礎定数」が新設された。
まとめ
平成28年度予算、平成29年度予算の成立に向けた文部科学省の取り組みについて、紹介した。
平成29年度は、文部科学省の取り組みでの成果で、法律が改正され、「少人数指導等の推進のための基礎定数」が新設されることとなった。
そして、今後10年間で、教職員の加配定数の基礎定数化を進めることが約束された。
次回「コロナ禍で少人数学級への移行は可能か~文部科学省はずっと提案し続けている!⑥~平成30年度予算~」では、少人数学級実現のための施策が皆無であった残念な平成30年度予算について説明していく。
平成30年度予算編成の過程では、「学校における働き方改革に係る緊急提言」や「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(中間まとめ)」という学校における働き方改革にとって大変意義のある発表があったので、是非次回の記事も読んでほしい。
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